#2-3 古代遺跡を探索しよう

第46話 謎の金髪美女を追って

 金髪美女の女親分は少し目を離した隙に消えていなくなっていた。


 この穴はただの縦穴だと思っていたのだけど、よく見ると瓦礫の影にかくれるようにして横穴が一つ繋がっているのが見つかったのだ。おそらくはそこから逃げ出したに違いない。


 これは出来るだけ早く追いかけた方が良いだろう。


 俺はみんなにそうしようと呼びかけたが、そうは問屋が卸してくれなかった。


「主様、いったい何があったんですか? それにここはどこなんでしょうか。」

「私もそれは知りたいわ。妖獣と戦い始めたかと思ったら邪魔が入って、そいつらと戦い始めたと思ったら爆発して、気が付いたらここ。それにあの女親分はなんなの? 私たちに何があったの?」

「それとさっきのアレもだ。鏡が勝手に動き出すし、お前の影から出てきた何かも勝手に動いていたように見えたぞ。」


 どうやら女親分を追いかけるよりも先に、説明を求められているようだ。


 あの金髪美女には逃げられてしまうかも知れないけど、みんなの表情を見る限り、あまり後回しには出来ないように感じる。


「俺はあの女をすぐに追いかけたいけど、そうもいかないみたいだなぁ。」

「なあ、賢者。カシコのカは『考える』だろ? もしかしたらお前の言う通り、今すぐあれを追った方が良いかもしれない。だけどな、それを判断する材料が俺たちにはないんだわ。まずは考える、その情報が必要だ。じゃないと、シバくも殺すもできないだろ?」


 おい、こいつほんとにダイキなのか? さっきの女が化けてるんじゃないだろうな。



 今から追いかけて捕まえられるかどうかもわからないし、ここはちゃんと説明することにしよう。


「ちょっと前に、裸でタワシ一個持って飛ばされてきたって話したでしょ?」

「ああ、聞いたな。」

「さっき勝手に動いてたのがそのタワシだよ。何で動くのかは俺にもわからん。」


 俺は次元収納からタワシを出してみんなに見せる。さっきはあんなに元気だったのに、結構人見知りなのか、今は全く動こうとはしない。


「タワシだな。……動かないみたいだけど。」

「そうね、タワシね。動かないみたいだけど。」

「これがそのタワシなのね。動かないみたいだけど。」


 俺はタワシを片付けてから、泣き疲れて寝ているシロを抱きなおし、今日の狩りの流れを最初から説明した。


「いろいろあったけど、展開が早すぎて、説明する時間がほとんどなかったんだよね。乱入してきた奴らはかなり距離が離れていたはずなのに、魔法で瞬間移動してきたみたいだし、あいつらを全滅させようと思ったら、神器の鏡に魔法を反射されるし、魔法全開で吹き飛ばしたら、穴に落ちるし、かと思ったらタワシが暴れはじめるし。」


 本当に展開が早すぎて、状況を説明している時間がほとんどなかったのだ。それに申し訳ないが、タワシのことは俺にも説明できない。


「すみません、よろしいですか?」

「ああ、いいよ。スザク、どうしたの?」

「そろそろマミコを掘り出したいんですが。」


 スザクの視線をたどると、マミコが逆立ちした状態で瓦礫に埋まっていた。あ、そうか、マミコのことをすっかり忘れてたぜ。



「あーもう、いろいろ良くわからんし、儲かったと思ったら全部なくなるし、なんだかよくわからん一週間だったぜ。」

「そうね……武器も装備も何もかもなくなっちゃったしね。ウサギ狩りから始めるしかないのかもね。」


 ん? こいつら何を言ってるの?


「討伐依頼の取り分だってあるし、結構儲かったと思うけど?」

「あのね、賢者、いくら妖獣や盗賊を狩ったって、証明出来なければ協会からは何も貰えないのよ?」

「ここまで落ちてくる時に武器も荷物もどっかにいっちゃったしね。多分この瓦礫に埋まってるわよ。どうする? 掘り返してみる?」


(ちゃんと全部確保できてるよね?)

〈当然でしょ? 私たちは精霊シーなの。そろそろわかって欲しいわ。〉


 しっかり障壁で守るよう頼んでいたので、あの大爆発の中でも、ほとんどの装備や荷物はなんともなかったようだ。ただ乱入者たちの身に着けていた装備の中に一部、回収遅れのために完全に壊れてちりになったものもあった。


 ほとんどの物は瓦礫の下に埋まっている状態だったので、魔法で掘り返してもらうことで、何も問題なく手元に取り返すことができたのである。



 回収できた物を確認してみると、その内容はとてつもなく豊富な物になっていた。


 各々の荷物や装備、狩った妖獣シバーは当然のこととして、倒した乱入者というか盗賊八人の荷物と装備、単純にいえばこれだけなのだけれど、その盗賊の荷物の中身が尋常では無かったのだ。


 その中身は普通の道具類や食料などの他、倒した妖獣や採取した薬草、そして数十枚の探索者証が含まれていたのである。


「これってつまり、そういうことだよね。」

「ああ。俺たちを襲った時のような手口で、何組も襲って殺していたってことだ。」

「私たちより先行してた探索者グループが、少しづつ数が減っていってたのも、もしかしてあいつらに狩られてたからかな。」


 おかげで俺たちは、人数分の魔法コンロや魔法ランプ、魔法の袋などを手に入れることができたし、ほとんど採取をしていないのに薬草採取の依頼が達成できたり、妖獣狩りの依頼が達成できたりすることになる。


 そしてそれらは本来、この探索者証の持ち主が命を賭けて得たものであり、彼らはそれによって、協会から充分な報酬も得られるはずだったわけだ。


 もちろん探索者証を残して死んだ者の中には、盗賊行為で殺された者が含まれているかも知れない。しかしこの袋の中身から考えて、そういった者の数はそれほど多くなく、大多数が普通の探索者だった事がはっきりと伝わってくるのだ。


「タカシがあの女親分を追いかけたいって言った意味が、これを見てはっきりと分かったぞ。」

「野放しにはしたくないな。今からだと遅いかも知れんが、追いかけるか?」

「そうね、そうしなきゃ駄目でしょ。」

「どうやらみんなが分かってくれたみたいで嬉しいよ。」


 そう、盗賊どもの荷物の中には現金が含まれていない、つまりあの女が金を持って逃げたのだ。俺たちの物になるはずだった金を、だ!



 ここから金髪美女を追って横穴を進む前に、俺は精霊さんたちに頼んで穴の入り口にふたをしておくことにした。この縦穴はとんでもなく深い。もし誰かが間違ってこの穴に落ちたりしたら、まず間違いなく命を落とすことになるからだ。


 それと一応だけど、縦穴の壁は魔法の結界で強化して固めておく。今は極大魔法の高温で溶けて固まっているからいいけれど、これが崩れ出すと危険だし、地下水やなんかが漏れだしたら面倒なことになるからね。


 すべての処理が終わったあと、もう一度周囲を調べると、横穴は一つではなく、反対方向にもう一つあった。どうやらこの縦穴は、地下にあった洞窟と偶然つながったってことみたいだ。


 シルビアとグロリアに道案内を頼み、謎の金髪美女が逃げたと思しき方向に伸びている横穴を選んで、俺たちは魔法ランプを片手に、しっかり隊列を組んで入っていった。


 横穴はけっこうな広さがある。魔法ランプの灯りが、まるで横穴の暗闇に吸い込まれていくようだ。周囲はそれほど明るくないが、目が慣れてきたこともあって、足元がおぼつかなくなるほどじゃない。


 入ってみると良くわかるのだけど、この洞窟はどうやら自然にできたものではなさそうだった。非常に直線的に伸びているし、幅や高さが一定に保たれて過ぎている。それに壁がゴツゴツしておらず、きれいに整形されているような気がするのだ。


 魔法ランプの灯りを壁や天井などに向けてみると、その様子がはっきりとわかった。ところどころ大きく崩れたり、ひび割れたりしているものの、何かコンクリートのようなもので固められている様子である。


 それに地面には、俺には見慣れたものがある。うん、間違いない。ここは誰かが作ったトンネルだね。



 みんなも俺と同じ結論に至ったらしい。まあ、これなら誰が見てもわかるだろう。


「なんだか古代の遺跡のような気がするわ。」

「ああ、こんな辺境の森の中に、誰もトンネルなんて作らないだろうからな。」

「人が掘ったにしては広いトンネルだなあ。やっぱり魔法で掘ったんだろうな。」

「なあ、この地面にずっと二本並んでる、盛り上がってる部分、これ何だろう?」


 ああ、これは線路だね。ここは地下鉄かなにかのトンネルに違いない。


 俺が簡単に説明すると、実際に見るのは初めてだっただけで、線路は鉱山などに行けば使われているらしく、みんながしっかり理解できたようだ。


「トロッコがあるってことは、ここは昔の鉱山だったわけか。」

「なんとなく、トロッコってもっと小さい物だと思っていたけど、こんなに大きな物だったのね。」


 おそらく鉱山ではないと思うけど、ここは異世界だ。巨人の鉱山だった可能性だってあるわけだし、俺はそれについては何も言わず、眠っているシロを抱いたまま、黙って前衛のあとについて歩き続けた。


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