第2話 天啓

旅立って三日目の夜だった。

俺と聖女は森の外れで焚き火を囲んでいた。

虫の声と薪の爆ぜる音だけが響く静かな夜。

聖女は祈りを捧げ、俺は干し肉をかじっていた。


そのときだった。

――股間が熱い。

股間の奥から何かが胎動するような感覚が走った。


次の瞬間、荘厳な声が袋を震わせた。


「……久しいな、人の子よ」


俺は思わず干し肉を吐き出した。


「だ、誰だ!?」


聖女は顔を蒼白にし、両手を胸に組んで震えている。


「我は古よりこの地を見守りし者なり。黄金に輝く双なる珠に宿りし存在……人は我を“神”と呼ぶ」


声は低く重く、

まるで大聖堂の鐘のように響き渡った。

森の木々がざわめき、焚き火の炎が揺れる。

俺は呆然としながら、自分の股間を見下ろした。

そこから金色の光が漏れ、夜を照らしている。


「おお……ついに……!」


聖女は涙ぐみ、震える声で言った。


「伝承は本当だったのですね……勇者さまの……き、きん……たまに、神が……!」


言い切った瞬間、彼女は羞恥に打ち震え顔を覆った。


だが、その神が荘厳さを保ったのは、ほんの一瞬だった。


「フハハハ!我の眠りを覚ましたのは貴様か小僧!よくぞ旅立った!褒めてつかわすぞ!」


「いや、褒められても……俺はただ巻き込まれただけで……」


「黙らっしゃい!我の器となったからには、お前は勇者である!誇れ!そして我を崇めよ!」


偉そうだ。

ひたすら偉そうだ。

しかも声が股間から響いているせいで、威厳よりも羞恥が勝つ。


「聖女よ!」


神の声が聖女に向けられる。


「な、な、なんでしょうか……!」


「我を讃えよ!その清き唇で“金玉神”と唱えるのだ!なんなら金玉と呼び捨てでもよい……それもまたよし!」


「そ、そんな……!わ、私には……!」


聖女は顔を真っ赤にし、涙目で首を振る。


「唱えねば力は解放されぬが……それでもよいのか!?」


「ひぃゃあああ……! き、きん……たま……神……さま……!」


聖女は羞恥に震えながらも、使命感で必死に言葉を絞り出した。


その瞬間、股間から眩い光が迸った。

森全体が昼のように照らされ、鳥たちが驚いて飛び立つ。


「よし!これぞ我の神威!見たか小僧よ!」


「見たかって……俺の股間からサーチライト出てるんだぞ!?このづらなんとかしろよ。恥ずかしい!」


「恥などと不敬な!我は神ぞ!世界を救う光ぞ!」


俺は頭を抱えた。

聖女はといえば、羞恥で倒れそうになりながらも、

俺の肩に手を置いて支えてくれている。


「ゆ、勇者さま……大丈夫です……私が……見守りますから……」


「いや、見守られるのも別の意味で恥ずかしいから!」


こうして俺たちの旅は新たな段階に入った。

股間に宿る古代の神――金玉神。

荘厳な口調で降臨したかと思えば、

下ネタ全開で偉そうに振る舞うこの存在と共に、

俺と聖女は魔王討伐の道を歩むことになった。


……俺の尊厳は、果たして最後まで持つのだろうか。

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