第2話:手始めはゴブリン退治・後編

 依頼を受けてイースト村へ出かけた俺達。


 「ご主人♪ 役場前の雑貨屋さんで、お菓子買って欲しいっす♪」

 「ああ、軽めでな」


 ルーキーズポートから片道三時間、村と言いつつ雑貨屋や宿屋などもある。

 マホロバの田舎の農村よりは文明度が高い。

 農村と言うよりは小さい町だ、金が使えるって文明の証拠だよな。


 「はいよ、魔力と体力両方の回復駄菓子詰め合わせだね♪」

 「ありがとうございます、ほらチカゲ♪」

 「わふ、嬉しいっす♪」


 駄菓子の袋をチカゲに渡し、店のおばちゃんに代金を支払う。


 「俺達、冒険者なんですが最近おかしな事って起きてます?」

 「そうだねえ、お客さん達みたいな冒険者さん向きな話は聞かないねえ?」


 買い物ついでに聞くが、特におかしな噂話などはないそうだ。

 宿屋の方で聞いてみてと言われ店を出る俺達。


 チカゲはご機嫌で、棒付きのデカい渦巻キャンディを舐めて食べ歩き。

 チカゲが食べ終わったら、キャンディの棒を妖力の火を出し瞬時に焼き尽くす。


 「えへへ、ご馳走様でしたご主人♪」

 「うん、お行儀が良くて良し♪」


 石造りの二階建ての役場に着いた俺達。

 中に入り、受付で用件を告げる。


 「依頼を受けていただいた冒険者様ですね、奥で村長がお待ちです」


 地味な白シャツに灰色ベストの青年が対応してくれる。

 通された先の廊下を歩き入った場所。

 そこにあるのは、執務机と本棚と来客用のテーブルと椅子。

 簡素な村長室で俺達は、依頼主である村長さんと対面する。


 「お世話になっております、村長のバッシュと申します」


 ガタイの良い真面目そうな顔でスキンヘッドのおじさんだ。

 挨拶をして来るのでこちらも一礼する。

 上下緑で揃えた礼服なのは見栄え重視だろう。


 「初めまして、冒険者のヨウタローです♪」

 「チカゲです♪」


 俺達もきちんと礼と握手をして挨拶を交わす。

 そして席について話を始める。


 「ほう、お二方とも魔力が高めですな?」


 自分も冒険者上がりで、魔法戦士だと言うバッシュさん。

 礼服より、鎧の方が似合う感じの人だから納得した。


 「で、依頼の件なのですが追加で山の方の調査もお願いしたいのです」

 「先ほど、村の入り口前にゴブリンの群れが出たのを倒しましたが関係が?」

 「あれは確かに怪しい感じでしたね、ご主人?」

 「ええ、村で山狩りでもしたい所ですが戦力が足りず」


 村長さんが申し訳なく語る。

 この村、多分村長さんと村の男手が防衛に当たる感じなんだろうな。

 山狩りで村を空けた時に、村で何かあると不味い感じだ。


 「わかりました、お引き受けします」


 バッシュさんから依頼の追加で、山の調査も引き受けた。

 山の中なら、暴れても問題はないだろう。


 俺とチカゲは、役場を出る。


 「ご主人、これは私達チャンバラセイバーズの出番っすね♪」

 「いや、何そのパーティー名?」

 「今決めたっす、時代は洋風っす♪」

 「あのなあ、そこは俺の家名からアダシノ党とかじゃないのか?」

 「アダシノ家の家名、こっちじゃ全然ないっすよね? 妖怪総大将ですけど?」

 「う、それはまあな? けど、祖父ちゃんは多分有名だと思うぞ?」

 「ご主人、ここからご主人の名を天下に轟かせましょう♪」

 「天下か、俺は悠々自適に呑気に暮らしたくもあるがな」

 「悠々自適な暮らしをする為には、名声で稼ぐお金が要るっすよ!」

 「世知辛いな、頑張るしかねえか!」


 出世欲の強かったチカゲにより、パーティー名が決まる。

 チカゲの言う事もわからんでもない。

 俺自身が無名や無力では、話にならん。


 「それじゃあ、山の麓に行ったら付喪神達を呼び出すか」

 「妖怪達の出番っす♪」


 俺とチカゲは、バッシュさんが目星をつけた山へと向かう。

 山の方に行くと、家も畑もないな。


 「よし、百鬼夜行符の発動だ!」


 俺は野道に立ち、呪符を天に掲げて叫ぶ。

 百鬼夜行符ひゃっきやこうふ、式神こと西洋で言う使い魔の兵達を召喚する魔法の呪符だ。


 すると、空間が裂けて鎧兜を纏い武装した提灯お化けたちが現れる。


 「「「若様! 付喪神衆つくもがみしゅう《《》》、参上いたしました!」」」

 「ご苦労、これより小鬼どもを狩りに山を攻める!」

 「出陣っすよ、皆さん♪」

 「いざ、鬼退治~~!」

 「「「「オ~~~!」」」


 俺とチカゲは来てくれた妖怪兵達を激励し、皆で山へと向かう。

 妖怪達が持って来てくれた鎧兜を俺達も装備する。


 野道を進み草木を掻き分け罠を注意しつつ進む俺達。


 提灯お化けや釣瓶火と、火属性の妖怪達がいるおかげで明かりの不足はない。


 ゴブリンではないが、野犬達が警戒していた。


 「私達はゴブリン退治に来たっす、敵じゃないっす!」


 チカゲが叫ぶと野犬達は森の奥へと立ち去った。

 進軍する俺達の前に、棍棒で武装したゴブリン達が現れる。


 「ギギ! な、何者だ!」

 「ニンゲンじゃない、こいつら化け物!」

 「ナワバリ、マモル!」


 妖怪達を初めて見るゴブリンが驚きつつ襲って来る。


 「小鬼にバケモン呼ばわりされたくねえ!」

 「若とお嬢の邪魔だ、やっちまえ!」

 「倒してお宝はいただきよ~!」


 石臼さんや提灯お化けの五郎さんに普段は女中のおかめさんが突撃。

 薙刀や刺股で武装した妖怪達が露払いをしてくれる。


 森を抜ければ大きな洞窟、見張りのゴブリン達が妖怪達に蹴散らされる。


 「よし、突撃~っ!」

 「敵は洞窟にありっす~~っ!」


 俺とチカゲは、提灯お化けの五郎さんと石臼さんとおかめさんを手勢に突撃。

 洞窟の奥では、二メートルほどのゴブリンロードと手下達が酒盛りをしていた。


 「オノレ! ナニヤツ!」


 ゴブリンロードが驚き叫ぶ。


 「俺の名はヨウタロー・アダシノ、冒険者だ!」

 「チカゲっす! 我らチャンバラセイバーズが討伐に来たっす!」


 俺は光の刀の日吉丸ひよしまる、チカゲは炎の太刀の送火丸おくりびまるを抜きいて名乗る。


 「コロス、ウガ~~~!」


 ゴブリンロードは大鉈、手下達は片手剣を武器に襲って来た!

 手下は五郎さん達に任せて、俺とチカゲはゴブリンロードを狙う。


 「ウガ~~~!」

 「させないっす! ご主人、攻撃はお任せするっす!」


 ゴブリンロードの大上段からの大鉈の振り下ろしは、チカゲが武器で受けた。

 チカゲは敵の攻撃を押し返し、蹴りで突き飛ばす。


 「任せろ、マホロバ妖刀流・一刀両断!」


 俺はジャンプし、体を回転させながらゴブリンロードの頭に刃を振り下ろす!

 ゴブリンロードは、一刀両断されて骸となった。


 「敵の大将、討ち取ったりっす~♪」


 チカゲが高らかに叫ぶと、手下のゴブリン達は絶望した。

 だが、俺達にゴブリン達を生かしておく義理はなく全滅させた。


 「よし、これにてゴブリン退治の依頼は達成だ~♪」


 俺の叫びに妖怪達も喜びの叫びを上げた。

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