第19話、冒険者らしさ
えっほ、えっほ。
晴れ渡る青空。
気持ち良い空気に目に入る緑も鮮やかで、穏やかに登る坂道を僕もニヤもイヅミまでも気持ちよく走っている。
こんにちは、アベルです。子爵様の街を出発して二週間、やっとランニングを続けても直ぐには疲れなくなってきました。お腹の方はまだプニプニだけど、頑張って以前の状態まで戻します。
(アベルー、そろそろお腹が空きました)
食いしん坊のニヤがいるので、まだ暫く掛かるかな……。
「ちょうど良いから、あの窪地でお昼にしようか」
今いるのは、朝出発した村と次の町までを結ぶ街道のはずなんだけど、結構山の方に入っていて森も直ぐそばに迫っている。
本当ならもっと山から離れて川がある場所を通る筈なのだけど、何処かで曲がる道を間違えてしまったのかな?
窪地に引っ込んで、収納からテーブルとイスを取り出す。他の人から見られても良いように、丸太のテーブルとイス。
誰かが後からやってきた時は「元からありましたよ」と知らんぷりして置いて行く予定。
朝、村で作ってきたお弁当に、水と腹ペコさんの為に干し肉も出してあげる。
「お菓子……ない」
お菓子が無いことに寂しそうな顔をするけれど、ニヤもダイエットしてるんだからお菓子はお預けね。
三人揃ってお昼を食べる「いただきます!」
イヅミも猫の姿で現れて、お気に入りの干し肉を食べている時だった。
急にイヅミが大声で叫ぶ!
「!! 何かくるにゃ!」
ご飯の最中だってのに何?!
「ニヤ、人か? それとも獣?」
「きっと獣……山から……くる!」
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森の中から現れたソレは。
「フォレストウルフ」
森の中に住む狼系の魔物で、あまり群れずに単独行動が多いと言うけれど、目の前に現れたのは二体。
僕とニヤで一体ずつか……ニヤは無理をしないで防御優先で!
テーブルにしていた丸太を前に出して障害物とし、左右から同時に攻められないようにする。
腰に下げたショートソードを抜いて構える。
「ほら! さぁ来い!」
大声を出すと、それに反応して飛び込んでくるフォレストウルフ。飛び上がったせいでお腹がまる見えだよ!
正面を避けて、お腹に向けて剣を突き出すと。ドスッと言う手応えと重さが返ってきた。慣性のまま剣を抜くように振り払うと、ニヤに迫っているもう一頭のフォレストウルフを見る。
ニヤは、その素早さでフォレストウルフの攻撃を躱しながら、タイミングを見て槍を刺そうとするけれど、なかなか上手く行かない。
フォレストウルフがニヤの槍を避けて、バランスを崩した瞬間! 僕のショートソードがフォレストウルフの首を落とした。
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何て出来事が起こる訳もなく。
「いやー、こんな場所に人が居るんで驚いたよ」
さっきのは村を行き来する狩人のおじさんが山から降りてきた気配だった、大きな猪を仕留めて背中に背負って持っていたので、ニヤの鼻も騙されたんだね。
僕たちは改めてご飯を食べて、おじさんにもお茶を勧める。
「お、ありがとう。でも、朝にこんな丸太あったかな?」
丸太のイスに座って、首を捻りながらお茶を飲むおじさん。
「ぼ、僕たちがきた時には並んでましたよ。誰が置いたんですかねー」
ははは……。
そんな感じでお茶を飲みながら世間話しをしていると。
「魔物なんてこの辺りには出ないぞ、もっともっと南の王国の大地の端の方だけだ、この辺りにでるのは兎か猪、運が悪けりゃ熊だな」
やっぱりそうなんだね。
「坊主も爺さん達から聞かされているだろうが、魔族や魔物は魔王が連れた眷属で、魔王の言う事だけを聞き、人間を襲い、この世界に争いと混沌を巻き起こしたんだ。人類は魔王と戦うために協力して戦っているんだぞ」
そうなんだ。それは僕もずっと小さな頃から聞かされていた話しで、魔族はとても恐ろしい存在で、魔王に従い魔物を従えて人間を襲うと教えられてきた。
「坊主たちは冒険者だから大丈夫だろうが、この辺りは人があまり通らないからな、盗賊には気を付けなよ」
お茶を飲み終わったおじさんから、先の方で下の街道に繋がる道を教えて貰い別れた。
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「やっぱり間違えていたんだね」
だんだん細くなっていく山道を、イヅミ、僕、ニヤの順で歩く。前後の二人は鼻が効き、気配察知も得意、僕には攻撃手段があるので前後どちらから敵が来ても大丈夫と言う並びだ。
「だから、さっきの道は右だと言ったにゃ」
「いやいや、先にコッチだと言ったのはイヅミだったろ?」
「だけどあの先は……」
なぜ言い争っているかって?
はい、また道に迷いました……。
おじさんに教えて貰った、街道に戻る道を選んだつもりが気がつくと山の上の方に進んでいて。
「キレイ」
「キレイだにゃ」
「夕日……まぶしい」
山の山頂で、今まで見たことの無いキレイな夕焼けの景色を三人で楽しみました。
「仕方ない、今日はここで野宿にしよう」
山頂から見えた街の方角に少し下がって、少し開けた良さそうな窪みにテントを張る。
火は使えないから収納に入れた物だけ、と言っても火を起こして焼いて食べるより、収納の中の物の方がお店で買った食べ物だから美味しいんだよね。
「アベル……お菓子」
ニヤからお菓子の催促、ニヤには一日一回だけお菓子を許しているので、今日は夕飯の後のデザートでお菓子を出してあげる。
「はい、ゆっくり食べるんだよ」
ニヤがとても嬉しそうな笑顔でお菓子を頬張る。
コフッ、コフッ!
「ほらほらゆっくり食べないから、お水飲んで」
ニヤはほんとうに子どもみたいで、一緒にいるとリリーの事を思い出す。
(お兄ちゃーん、今どこ?)
うん、いつでも妹とは連絡取れるんだけどね。
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