第22話 決着

 俺は最後の曲がり角を通過する。


 ゴールの学校の正門が見えてくる。


「あ! 大橋先輩だ!! 」


 花見が俺の走る姿を発見する。何処か嬉しそうに分かりやすく頬を緩ませる。


「…大橋先輩」


 柚木は俺を信じるように豊満な胸の前で両手を絡ませる。まるで祈るように両目も瞑る。


 俺は花見達の姿を余裕ある体力で視認する。そのまま同じペースで走り続ける。ゴールに一直線に前進する。


 俺はペースを落とすことなくゴールの正門を通過する。その後、スピードを徐々に落とす。次第に足をの回転を下げ、最終的に止める。


「ふぅ~〜」


 俺は呼吸を整えるために1度だけ大きく息を吐く。


 満足した俺は、ゆっくりとした足取りで花見と柚木の佇む正門前に移動する。


「大橋先輩! すごいです! 流石ですね!! 」


 花見と柚木が明るい表情で俺の下に駆け寄る。


「うちも大橋先輩を信じてました! 」


 柚木も明るい表情ながらも何処か安心したような言動だ。


「2人共。ありがとう」


 俺は2人に口頭で感謝に伝える。


「それにしても大橋先輩は全然疲れてるように見えないですね」


 柚木が俺の様子から観察して尋ねる。


「本当に。汗も殆ど掻いてないし、息も乱れてないし。まるで2キロを余裕で走り切ったみたいです」


 花見も柚木に同意する。


「どうしたら大橋先輩のような体力になれるんですか? 今の2キロは余力を残して走れるようになりたいんです」


 柚木が体力を強化する方法を尋ねる。


「私もです! 」


 花見も柚木と同じ気持ちを表明する。


 花見と柚木は真剣な眼差しを向ける。


 花見も柚木も本気なんだな。本気でトレーニングに取り組む意志がありそうだし。本当に強くなりたいと思っている。


 俺も2人の気持ちに応えないとな。


「なれるさ。お前達も。継続して俺とのトレーニングに取り組めばな」


 俺は僅かに頬を緩めて回答する。期待を持たせる言葉を届けるために。


「本当ですか~」


 花見が疑いの目を向ける。


「うちは大橋先輩の言葉を信じて頑張ります」


 柚木は素直に俺の言葉を受け入れる。


「はぁ…ぜぇ…ぜぇ…はぁ……」


 一方、ようやく新浜が最後の曲がり角から姿を見せる。大きく息を乱しながら最後の直線をフラフラな状態で走る。スピードはランニングと変わらない。非常に遅い。


 しばらく待つ。


 ようやく新浜は学校の正門のゴールを通過する。


「はぁ…はぁ…。やっと…ゴール…でき…た」


 新浜は力尽きるようにゴール付近で倒れ込む。仰向けになり、両目を腕で隠し、息を大きく荒らし、空中に舞う酸素を強く求める。大きな疲労は隠しきれない。


 俺とは大きく異なり、新浜の体中には大量の汗が流れる。コンクリートには新浜の背中に溜まる汗が落下し、徐々に染みつく。


 俺は花見と柚木との場所を離れる。無言で新浜の下へ移動する。


 花見も柚木も空気の変化を敏感に察知する。緊張した面持ちで口を塞ぐように強く引き結ぶ。


「お疲れ中に悪いな」


 俺は上から見下ろす形で新浜に声を掛ける。


「はぁ…ぜぇ…ぜぇ…」


 新浜は未だに呼吸が落ち着かない。大きく荒れた息が荒れたまま俺と目を合わせられない。


「約束は約束だ。勝負は俺の勝ちだ。今後、トレーニングの参加は控えて貰う。厳守を願う」

 

 俺は淡々と新浜に現実を突き付ける。


「はぁ…。はぁ…」


 新浜からの返事は無い。反応も無いように見える。


「以上だ。疲労困憊の中に悪かったな」


 俺は新浜の無反応を無言の肯定と捉える。用は済んだので踵を返し、ゆっくりと歩を進め、花見と柚木の下に再び帰還した。新浜の疲労困憊で仰向けで倒れ込む姿に背中を向けたまま。

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