大樹と妖精の試練編 ―ベルとアイが聞いた“森のはじまりの物語”―
森の奥深く、朝日が差し込み始めたころ。
ベルとアイの兄妹は、こつこつと落ち葉を踏みしめながら、大樹のもとへ向かっていました。
「大樹さん、今日はどんなお話が聞けるかな」
「きっと、また昔のすごい話だよ!」
ふたりが期待に胸をふくらませて近づくと、大樹は枝をふわりと揺らして笑いました。
「おや、ベル、アイ。待っておったぞ。
今日は――“大樹と妖精たちが受けた試練” の話を、そなたたちに教えよう。」
ベルとアイは顔を見合わせ、急いで根元に腰を下ろしました。
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◆一、森がまだ幼かったころ
大樹が若かったころ、森はまだ生まれたばかり。
季節の妖精たち――
春のチロル、夏のマーサ、秋のタム、冬のターウィン
も、まだ自分たちの力を完全には扱えず、世界は季節の流れが安定していませんでした。
チロルが歌えば突然花が咲きすぎ、
マーサが踊れば大地が熱くなりすぎ、
タムがはしゃげば紅葉がわぁっと広がり、
ターウィンがくしゃみをすれば雪が降りすぎる――。
「なんだか、みんな元気すぎたんだね」
アイがくすくす笑うと、大樹はゆるやかにうなずきました。
「うむ。しかし、それでは森はうまく育たぬ。
そこで“森の精霊王”が現れ、わしらに 試練 を課したのじゃ。」
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◆二、精霊王からの三つの試練
精霊王は大樹と妖精たちにこう告げました。
> 『森をひとつにまとめる心を持つ者だけが、四季を正しく巡らせることができる』
そして三つの試練を与えました。
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■第一の試練:
「自分の力より仲間を信じられるか」
最初の試練の場所は、霧の谷。
そこでは、幻想の霧が妖精たちに “自分が一番大切” と言わせる幻を見せてきました。
「春こそ一番よ!」とチロルの幻が叫び、
「夏が主役に決まってる!」とマーサの幻が反論し、
「秋の色が世界を染めるんだ!」
「冬の静けさが世界を守る!」
幻同士が言い争い、ほんものの妖精たちは混乱しました。
すると、若き日の大樹が根を鳴らし、地面に語りかけました。
> 『みな、四季はひとりでは巡らぬ。ともにあってこそ美しい』
その声が妖精たちの心にしみ込み、霧を晴らしました。
ベルは目を丸くしました。
「大樹さん、若いころからリーダーだったんだね!」
「いやいや、まだ細い木でな。声も今ほど立派ではなかったぞ」
大樹は照れくさそうに枝を揺らしました。
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■第二の試練:
「森に潜む“影”との対峙」
次の試練は、太陽の届かぬ黒き淵にて。
森の奥深くには、“季節が整わぬ混乱” を食べて育つ影の魔物がいました。
名は クロスモーグ。
妖精たちの未熟な力の乱れを吸い、巨大になっていたのです。
マーサが炎の光をともすと、黒い影がうごめきました。
「こわっ……」
アイがベルの袖を掴みます。
若き日の妖精たちもおびえていましたが、大樹が言いました。
> 『影は光があれば消える。
明かりは一人の力では弱い。
だが皆で灯せば、影は消え去る』
チロルは花の光、マーサは夏の炎、タムは秋の燈火、
ターウィンは雪の反射光を生み、
四つの光が重なってクロスモーグを押し返しました。
森にすんだ小さな木々や草花も、ぱっと光を返して助けました。
そして闇はしずかに砕け散ったのです。
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■第三の試練:
「森を守る“決意”を持てるか」
最後の試練は、静かな湖の上に現れました。
湖面に映ったのは――
未来の森の姿。
木々が減り、風が止まり、妖精たちの力も弱まっていく姿でした。
妖精たちは震えます。
「私たちが失敗したら、森はこんなふうになるの……?」
チロルが小さくつぶやくと、大樹は湖面を見つめて言いました。
> 『森はいつか危機にさらされよう。
だが、守ると決めた者がいれば立ち直れる。
大切なのは、恐れぬ心より“守ると決意する心”だ』
妖精たちは胸に手を当て、静かにうなずきました。
その瞬間、湖面に輝く光が走り、
精霊王の声が森中に響きました。
> 『試練を越えた者たちよ。
四季を司り、森を未来へつなぎなさい』
こうして、妖精たちは四季を守る役目を得、
大樹は森の導き手となったのです。
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◆三、語り終えて
「……これが、わしと妖精たちが受けた試練じゃ」
大樹が語り終えると、ベルもアイも、しんと静まり返っていました。
「……すごいよ」
「大樹さん、そんな怖いこといっぱい乗り越えてきたんだね」
大樹は枝をそっと掲げ、ふたりの頭を包み込むように揺らしました。
「そなたら人間も、森も、妖精たちも、
いつか試練を迎える。
だが“守りたい”と思う心がある限り、未来は必ず道を開く」
ベルとアイは顔を見合わせ、力強くうなずきました。
「私たちも、森を守るよ!」
「妖精たちと一緒に!」
大樹は嬉しそうに葉をきらめかせました。
「これからも、そなたたちに伝える物語はまだまだあるぞ。
森の歴史は深く、冒険は尽きぬからな。」
その声は、朝の光とともに森中に温かく響きました。
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――おしまい――
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