大樹と妖精たちが出会った日 ―ベルとアイ兄妹に語られる “はじまりの森” の物語―
森の奥深く。
大長老の家の縁側で、ベルとアイは二人並んで座っていた。
今日は、大長老がどうしても聞かせたいという“特別な物語”の日だった。
「さぁ、よくお聞き。
これは、森がまだ幼く、季節の妖精たちがまだ姿を持たなかった頃のお話じゃ。」
大長老は、長い白いひげを揺らしながら語り始めた。
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■ 第一章 森がまだ若かった頃
昔々――
森には、まだ季節というものがはっきりと存在していなかった。
春のような温かさの中に、唐突に夏の嵐が混じり、
冬の寒気が吹けば、すぐに秋のしずくが降る。
「森が落ち着かなかったんだね」
アイが頬に手を当ててつぶやく。
「そうなのじゃ。森がまだ“呼吸”を覚えておらなんだ頃よ。」
森の中心には、若き 大樹(たいじゅ) が立っていた。
いまよりずっと細く、背も低く、幹にはまだ柔らかな若木の色が残っていた。
だが、大樹は生まれたばかりの森を心から愛していた。
風のささやき、雲の流れ、地面のあたたかい脈動。
森のすべてが、大樹にとっては友だった。
しかし――
森には、四つの力が混ざりすぎて、いつも争っていた。
春の香りの霧が夏の熱気とぶつかり、
秋の色の粒が冬の冷気で凍りつき、
森は常にざわめいていた。
大樹は静かに願った。
「森よ、どうか落ち着くんだ。
ひとつひとつの力が仲良く調和できるように…。」
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■ 第二章 四つの光 ―妖精の誕生―
ある夜。
星がいつもより強く輝き、森の中心に光が落ちた。
どこからともなく、優しい歌声が響く。
> 「森に調和を、命に循環を……
四つの力、姿を持て」
大樹が見上げると、星の光が四つに分かれ、
ふわりと森の地面に降り立った。
その光はやがて形をとり――
ひとりは柔らかなピンクの風をまとった少女。
ひとりは太陽のように元気な笑顔の少年。
ひとりは実りと影を同時に宿した落ちついた青年。
ひとりは雪の結晶のような透き通った瞳の少女。
それが、季節の妖精たちのはじまり。
春の妖精 チロル、
夏の妖精 マーサ、
秋の妖精 タム、
冬の妖精 ターウィン。
ベルは思わず身を乗り出した。
「えっ! 妖精たちって、もともと光だったの?」
「そうじゃ」
大長老は頷いた。
「森が必要としたからこそ、星々が彼らを形にしたのよ。」
妖精たちは大樹の足元に集まり、同時に言った。
「大樹よ。あなたの願いに応えるため、私たちは生まれました。」
若き大樹は震える葉をゆらした。
「森に季節を――
森に、安らぎを。」
四人の妖精は手を取り合い、その瞬間――
森に初めて“春夏秋冬”が生まれた。
春は芽吹き、
夏は光り、
秋は実り、
冬は眠る。
森が呼吸を覚えたその日、
大樹はゆっくりと、世界の中心へと成長していった。
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■ 第三章 友情の始まり
妖精たちは大樹を「先生」のように慕い、
大樹は彼らを「子どもたち」のように愛しく思った。
けれど、季節の妖精は生まれたばかり。
それぞれが力の使い方を覚えるまで、失敗も多かった。
チロルが花の香りを出しすぎて森がくしゃみだらけになったり、
マーサが太陽を強めすぎて木の葉を焦がしたり、
タムが落ち葉を降らせすぎて道を埋めてしまったり、
ターウィンが雪を降らせすぎて川を凍らせてしまったり。
そんな時、いつも大樹は静かに言った。
「失敗は、森が教えてくれる学びじゃよ。」
その声に、森の風がふわりと笑った。
季節たちは成長し、
森は日に日に豊かになっていった。
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■ 第四章 物語の終わりと始まり
大長老はゆっくりと話を閉じた。
「これが、大樹と妖精たちの出会いの物語じゃ。」
ベルは真剣な顔で言った。
「じゃあ、大樹は季節を作った…森の“はじまりの父”みたいな存在なんだね。」
「そうじゃ。そしてお前たち人間も、森とともに生きる子どものひとりなのだよ。」
アイは胸に手をあてた。
「森を守るってことは、妖精さんたちを守るってことでもあるんだね。」
「その通りじゃ、アイ。」
大長老は少し笑い、続けた。
「そして、この物語はまだ終わらぬ。
いずれ、お前たち兄妹が紡ぐ“続き”が必ず来る。」
ベルもアイも、強く頷いた。
その瞬間、森の奥で風がふわりと笑い、
大樹の枝がささやくように揺れた。
まるで――
「これからもよろしくね」
と、四季の妖精たちと大樹が語りかけているようだった。
---おしまいー
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