第2話 舞たちの日常
10月5日。私たちは[シャングリラ]にいた。すでに2年前からブランシュ公国のエージェント活動に従事してるが、ここはそんな女の子たちが永年無料でバレヱのレッスンを受けられる素敵な場所。アギーレとエンリコは16歳の新米エージェントだが、日本語が流暢。不在の時も多いが、レッスンの目的はコンクール入賞ではない。からだを柔らかくしたり所作の美しさを磨くことに重きが置かれた。一見魔法戦士の戦いと無縁に見えるが必ずしもそうではない。例えば[フローラル]は新体操から生まれた技だし、見栄えのする可憐な技。対戦相手からも大好評を博した。かと言ってソレを鵜呑みにするのも危ない。だが魔法戦士は強さよりもむしろ魅せることに重きが置かれ、勝つことは必ずしも重要ではない。近年は彼女たちの育成や成長にシフトしたからだ。私と由紀。親友の内海柚花と桃香は実戦経験がなく、お母さんたちから呼ばれないと対戦できない。ブランシュ公国にはあの世とこの世があり、この世はイグニス制度を採用。だがあの世はさまざまな対戦相手がいる。イグニスは三十路のお母さん兵士。リオンは女性コンビ。トロイは殿方のコンビで男女混合はアビス。近年は故人とのカップリングが増え、私たちはお母さんたちからのご指名を待つ立場にある。残念ながらリアルの私たちに指名権はなく、あくまでもあの世からのご指名を受けないと対戦は叶わない。魔法戦士になれるのはリアルの人と異世界の王族のみ。もちろん男女問わないが、まだ男性魔法戦士は出ていない。だが今は[ショタコビッチ倶楽部]が生まれ、10歳児が対象。彼らは丸2年かけて異世界の世界観にどっぷり浸らされ、幼き魔法戦士として大切にはぐくまれる。その後は実戦経験豊富な成人女性とコンビを組み、異世界に雄飛することが期待された。荒木望と大崎高安。神島蓮と木内恭也は幼馴染。「望くんは将来が楽しみな子ね」「高安くんだってイケイケのお姉さんと組めば化けるかも」「蓮くんはオマセな子ね」「私は恭也くんが一番伸びる気がするわ」桃香はその理由としてビッコマのとある漫画を挙げた。イジメられっ子に憑依したフランス外人部隊の元傭兵が活躍する話だが、主人公と名前が同じ。男性魔法戦士は身近にモデルがいないせいか具体的なイメージが湧きにくい。しかも望くんたちはみんな父子家庭で母親の母性に飢えた環境。今日は私たち以外に2人しか来ておらず先生方にみっちりレッスンを受けられた。私と由紀は黒。柚花と桃香はピンクのレオタード姿。「舞はいい感じだね」「ウフフ」「由紀はまだからだが固いかな?」[からだが固い]は[もっと股を開いてみせて]という隠語であり、もちろん私たちは熟知してる。今日は望くんたちが見学に来てくれたせいか、テンションが爆上がり。純朴な紅顔の美少年たちは私たちを[未来のアイドル戦士]だと信じて疑わなかった。レオタードの胸には[Vivid Knights]と赤紫で鮮やかな刺しゅうが施されてる。参戦すれば私たちのコスチュームの左胸にVとKを組み合わせた赤紫の特製ワッペンが鮮やかに縫い付けられる。「柚花はいい感じだね」「エヘヘ」「桃香はまだからだが固いね」妹たちは恥じらいながらも股を開いた。シャングリラの趣旨は女の子たちが羞恥を失うことなく人前で股を開くことに重きが置かれた。魔法戦士は訓練や対戦中、イヤでもそんなシーンが頻発するからだ。かつて深窓の令嬢たちが騙されて参戦し、殿方の前で「絶対にムリですっ」と泣き叫んで土下座してまで赦しを乞うた事例がある。シャングリラは異世界側主導ではなく、名古屋で自発的に生まれたことに意味がある。こうした試みは異世界側主導で行われてきたが、私たちは自ら声を上げた。「いつまでも異世界の方々に甘えてるわけにはいかないわ」私たちは望くんたちの前で艶やかな晴れ姿をお披露目できて大満足。こうした地道な積み重ねが魔法戦士を形成していく。望くんたちは可愛らしい女の子に囲まれてはぐくまれる予定だし、断然ヤル気が湧くはず。仕組みや制度設計が宇宙一ドヘタクソな日本に異世界は学ばなかった。だからこそ魔法戦士の対戦システムは独自の進化を遂げることができた。「もし日本なんぞに学んでいたら魔法戦士の文化はとっくに潰えた」というのが異世界の常識。宇宙一現場オンチの日本人なんぞに設計できるほど単純な仕組みではない。私たちはレオタード姿のまま望くんたちとの雑談に花を咲かせた。「舞ちゃんはいつ戦うの?」「そうね。お母さんたちからご指名があれば行くわ」「由紀ちゃんは誰とやるの?」「たぶん芽吹さんね。叔母に当たる人だけど。ずいぶん可愛がってもらったからね」「柚花ちゃんはアイドル戦士になるの?」「お母さんたちからご指名があれば行くし、もちろんアイドル戦士を目指すわ」「桃香ちゃんは誰と戦うの?」「たぶん伊月さんね。叔母に当たる人だけど。ずいぶんお世話になったわ」彼らは意外と聞き上手なので私たちは好感した。
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