天使の恋愛相談
綾瀬 りょう
第1話 おまじない
「ねぇ、知っている?天使に恋愛相談をすると絶対に恋が叶うんだよ」
小中学生の間でしか出会えない不思議な存在が、恋のアドバイスをしてくれるって、気がついたら学校の噂話で一度は上がる。
多分知らない小中学生はいない。出会った人は恋愛がちゃんと叶っているって言う、噂も合わせて出回っているから、きっと天使が恋を応援してくれているのは、本当かもしれない。
SNSのDMでその天使に会えるリンクの連絡が来ることが来たとしても、恋が叶うまでは絶対にその天使が自分のところに居ることを言ってはいけない。
夕ご飯が終わって、急いでお風呂も済ませて自室に篭って、召喚の儀を行った。
満月の夜、白い紙に紫色のペンで書いた魔法陣に、三日間月の光を浴びせた水を垂らすと現れる天使様。
噂話でしか聞いたことない天使様が、
「貴方がアタシを呼び出したの?」
勉強机の上に置いてある魔法陣を書いた紙は天使が現れると同時に消滅した。
フワフワとウェーブのかかった肩までの紙は薄いピンク色で、金色の目は大きく、透き通る様な白い肌。白色のワンピースを着ていて、大きさは手のひらサイズ。絵本の中で見てきた妖精のイメージぴったりの女の子。
少し甲高い声が元気に私の事を指さしていた。
「人間、アタシの声が聞こえているんでしょ?呼び出したのは貴方なの」
どこか怒っているように聞こえるその声に、私は天使の可愛らしいと感じた第一印象から一転、思っているよりも強い子なのかなって思ってしまった。
「貴方じゃないわ、私は
天使に会えるわけがないと思いながら、噂を試して見たくなるくらいに叶えたい恋があった。だって、天使が現れると絶対に恋頼が叶うって誰もが聞いたことがあるから。一生に一度の恋をしていると思っているので、私はこの恋を叶えたかった。
例えば一年後高校進学で一緒の学校に通えなくなってしまったとしても。
天使は私の名前を何度か復唱してから、とても嬉しそうに笑った。
「亜瑠って言うのね。アタシを呼び出したからには安心しなさい。叶えたい恋があるから、私を呼び出したのよね?恋愛マスター天使アンジの手にかかれば一日で大好きな相手を夢中にさせてあげるわ」
自信満々に胸をそる天使。
「アンジって」
「アタシの名前よ。恋愛マスターなんだからね。滅多に出会えない天使に出会えたんだもん。百人力よ‼︎」
「本当?ずっと好きだったんだけど、どうしていいか分からなくて」
私は幼馴染の
「アタシの見習いの称号が取れる大事な一戦だから、心してかかるわよ」
「今なんて」
聞き間違えじゃないなら、見習いって言っていた気がする。私の疑問にアンジは私から目を反らした。
「何も言っていないわ。好きな人の情報を教えて」
「幼稚園の頃からの幼馴染で、家も近所の野田川健人。野球を始めるまでは割と一緒に公園とかで遊んでもらってたの。好きって自覚したのは小学校四年生の臨海学校の時に、肝試し大会で怖がっていた私に優しくしてくれたの」
恋する理由なんてすごく単純かもしれない。隣で笑い合う相手から、隣にいたい相手に代わって。誰に対しても仲良く接することができる健人は、クラスの人気者だった。
アンジはふんふんと腕組みをしながら私の話を黙って聞いていた。
「小さいころから相手の事が好きで、気持ちを伝えられなかったなら、ド直球に好きですって言えばいいのよ」
それが言えていれば天使に力を借りようとは思わない。素直になれないから、天使の力を借りようとしているのに。
「言えるわけないよ。だって健人は私は
「悟兄って誰よ」
まるで浮気現場を見た女の顔をしているアンジに、健人の7つ離れた兄で、悟兄の事は幼稚園生くらいの頃憧れていたけど、今は健人の事が好きだと伝える。
「相談することもなく、素直に伝える以外に道はないんじゃないの?」
アンジの答えに私は頭に血が上ってきた。
「それが出来たら苦労しないわよ!」
私は手のひらサイズのアンジを握り、部屋の2階の窓から外に投げ出した。
***
翌朝、天使アンジが目の前に現れたことは夢だったんじゃないかと思いながら、ボーッと授業を受けていた。今は体育の時間。隣のクラスと合同の授業で、男女別での競技。今日は体育館で、コート半分ずつでのバスケットボールをしていた。
私は運動音痴なので、先生に見つからない位でボールを追いかけたりして授業に参加している。
隣のコートで男子がやっているのを、休憩時間に、クラスの女子は友達と会話をしながら、グループに分かれて応援をしている。
「野田川くん、頑張って」
クラスの女子だけじゃなくて、隣のクラスの女子も健人を応援している。健人は軽く手を挙げて応え、その仕草がかっこいいとまた、女の子たちは声を上げた。
幼稚園の頃からの幼さ馴染みで、小学校四年生の頃から片想いをしている野田川健人。小学四年生から続けている野球はエースで四番という立場でいた。
「ちっちゃいころはあんなかっこよくなかったのに」
他の子達と少し距離を置いたところで、壁に寄りかかっていた。
「何、むくれているんですか」
「
私は幼稚園からのもう一人の友達の紗奈にほっぺをつねられた。私より十センチくらい身長が高く、優しいお姉さんみたいな雰囲気で、長い髪をポニーテールにしていた。私の恋心を知る数少ない人間。
「熱い視線送ってるの、どうして他の人は気が付かないのかな」
紗奈も私の隣で壁に寄りかかる。休憩時間は後5分くらい。座って休む人もいるけど、男子を見ている人が大半だった。
「私熱い視線送ってる?」
顔をぺたぺた触って確認をする。顔に出ているつもりは無かったのに、出てたのかな。
「可愛いよ。すっごく」
その可愛いと言うセリフを、健人に言ってもらいたくて。色付きのリップをつけたり、流行りの髪型にチャレンジしてみているのに、健人は褒めてくれない。それに、最近は二人きりで話をしていても私の方を向いて話してくれなくなっている。
「素直になれていないのは、亜瑠も一緒なんじゃないの」
「ちっちゃいころから一緒に居るんだよ。今更好きって言えないよ」
「言わないと伝わらないことも、あるんだよ」
紗奈は悟兄の事が好きで、彼女が居るかもしれないと分かっていても、気持ちを伝えた。そして付き合うことになったのが1年前。紗奈が大人になるまでは絶対に下手に触らないと言う約束をしているらしい。紗奈は早く大人になりたいって言っていた。悟兄と並んで歩いても胸を張れるように。
紗奈は私にとって、初恋の相手の恋人であって、大切な親友。
私の恋心も、紗奈が先に言い当ててきた。隠し事をしたくても、小さい頃から一緒にいるから華、なんでもお見通しなんだ。嘘をついたとしても絶対にバレてしまうので、嘘をつかない様にしている。
「気持ちは伝えたいけど、恥ずかしいが、勝っちゃうし、何より告白されてみたい」
中学を卒業したら、もう一緒にいられる時間がなくなってしまうから。そうなる前に一度、自分の気持ちをちゃんと伝えたい。
「健人、中学校に入って更にモテ始めてるの知ってるでしょ?それに告白された時に必ず”好きな子がいるから気持ちに答えられません”って律儀に答えてるの知ってる」
幼馴染なんだから、健人のこと呼び出してよと言われたことが実際何回かある。私は告白に協力するのが辛かったので呼び出しのお手伝いをしたことはなかった。
「何か言った」
「危ない!!」
健人の叫び声が聞こえた気がし、振り向こうとしたと同時に、頭に強い振動を受ける。
「亜瑠、大丈夫か」
「しっかりして」
健人と紗奈が私の名前を必死に呼んでいる気がする。
体育館の床がすっごく冷たくて、気持ちいいなと思いながら意識が途絶えた。
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