第2話:悪魔

 さて、僕は魔王に転生したわけだけど。

「目標を決めないとね」

 魔王に転生してはい終わり、というわけにもいかないだろう。せっかく魔王に転生したのだから、それっぽく生きようじゃないか。

 魔王のイメージ的に、暴虐ぼうぎゃくの限りを尽くす、だろうか?

 でも、暴虐と言っても何をすればいいのだろう。

 人々を虐げたりすればいいのかな?

 う〜ん、大雑把すぎるかなあ。もっとこう、具体的な目標がいいよなあ……。

 魔王らしいこと、魔王らしいこと……。

 あ、そうだ──。 

「世界征服すればいい」

 一時期読んでいたネット小説とかだと、たまに内政とかやったりするけれど……僕がするにはちょっと難しいな。

 でも、世界征服はいい目標かもしれない。国を創ることがあるのなら、内政とかそういうのは今後の配下に任せればいいだろう。

 あくまで僕の目的、目標は『世界征服』だ。

「ふふ、それっぽくなってきたなあ……!」

 魔王になるならば世界征服。

 そしてその魔王には『配下』が必要不可欠だろう。僕に絶対の忠誠を誓う配下が。

 となれば、やることはただ一つ──。


「悪魔召喚だ!」

 

 僕の能力『召喚:悪魔』は配下の悪魔が召喚出来るからね、ちょうどいい。

 使い方は分かる。神様のおかげだろう。感謝せねば……。

 そして僕は自身をカッコよく見せるため、玉座に座ったままその能力を行使する。

「来た……!」

 するとこの玉座の間、その床に魔法陣が現れた。

 僕では理解出来ない幾何学的模様が描かれ、それはまばゆく光り輝く。赤、青、黄、白……様々な色に変化しながら魔法陣は光り輝き、しばらくしてその光りは収束していった。

 そこから──。


「お初にお目にかかる。我が主よ」

 

 深紅のドレスを着飾った、僕へ跪く女性。

 その黒髪は夜空のように美しく艶やかで、彼女が顔を上げると、そこには僕と同じような深紅の瞳があった。

「あなた……貴様が我が召喚に応じた悪魔か?」

 口調もそれっぽくして、僕は一応問いかけた。

 彼女はとても妖艶な笑みを浮かべ、

わらわ主様あるじさま配下しもべたる悪魔。主様の召喚に応じ、馳せ参じた」

 と言った。

 知識によると配下の悪魔は最初、名前はないらしい。魔王である僕が名付けるのだそう。

 僕の名前に引き続き、名付けタイム到来。刹那のうちに僕は彼女の名前を考える。

「そうか。貴様には『レヴィエナ』の名を与える。今日からそう名乗れ」

「ありがたき幸せ」

 そうして、僕はレヴィエナを召喚した。

 

    *

  

「ほう、世界制服とな。魔王である主様に相応しい目標だと妾は思うぞ」

「そう?」

「うむ」

 僕は今、レヴィエナと色々お話をしていた。

 口調は元に戻っている。理由は疲れるから。

「して、主様よ」

「なに?」

「妾以外の配下は召喚せぬのか?」

「う〜ん、今はまだレヴィエナだけでいいかな。そもそも、召喚するための魔力がまだ足りないしね」

 僕は魔王であるため、魔法などを使う力である『魔力』が莫大ばくだいだ。

 しかし、レヴィエナを召喚したからなのか、魔力はかなり消費してしまった。連続して召喚は無理っぽい。まあ、もっと魔力の量が増えたらイケるのだろうけれど。

「ならば、これからどうするのじゃ? 世界征服にはまだ何もかもが足りぬぞ?」

「まずは僕の力をつけるところから、かな。まだ何とも戦ったことないし」

 僕はつよつよの魔王だけど、戦闘面に関しては初心者もいいところである。

 今のままでは世界征服どころか、人間に勝利することすら出来ないかもしれない。

 だから、まずは鍛錬。鍛えるなら、全属性が使用出来る魔法がいいかな。

 

 ──少しして、僕はレヴィエナと共に魔王城にある訓練場にいた。

 知識はあるけれど、僕は初心者なのでまずは基礎からやる。今やっているのは魔力をより精密に操作するため訓練である。

 どうやらレヴィエナを召喚したとき、僕の魔力は無駄に使用されていたらしい。まあ、それはレヴィエナの力となるからいいんだけど、魔法を使うときには出来るだけ無駄な消費は抑えたほうがいいのだそう。

「………」 

 僕は集中する。

 魔力の神髄に至るのだ。魔力を操作して、それがより精密に出来るよう……。

 汗が流れ落ちるが、気にしない。

 少しでも集中を乱せば、魔力は精密に操作出来ないから──。


    *


 翌日となった。

 僕は一日、何も食べていないのだが、腹が減る気配はない。おそらく、食事をしなくても生きていける肉体なのだろう、魔王というのは。

 しかして、何かは食べたい。

 空腹ではないのだけれど、何か食べないと、どこか落ち着かないんだよね。

 城に厨房はあるものの、僕は動物をかっ捌いたり出来ない。そもそも料理が出来ないのだ。前世でもコンビニで買った弁当とか食べてたし。

「ねえ、レヴィエナ。どうすればいいかな?」

「う〜む、妾も料理は出来ぬからのぉ。まあ、出来ぬというよりはやったことがないというか……」

「そうなんだよねえ……」

 どうしたものか。人間の国から料理人を拉致するか?

 まだこの城から出たことないから、絶対に失敗するだろうけどね。

「魔王城周辺の調査も兼ねて、食料調達してみる?」

「そうじゃのぉ」

「『転移の魔眼』でいつでも帰ることが出来るし、それでいいかあ。レヴィエナはお留守番してて欲しいな。一応のため」

「うむ、承知した」

 そうして僕は魔王城周辺の調査、もとい食料調達に出かけた。

 調理のことに関しては……まあ、どうにかなるだろう。

 

    *

 

 彼女は昼間の森を疾走していた。

 息を切らし、脚がもつれそうになるも、気合いでどうにかしてひた走る。

「待てェ、『エルフ』の女ァ」

 背後からは、己を捕らえんとする追っ手が。

 あれに追いつかれたならば、己はもはや生きては帰れぬであろう。誰とも知らぬ人間にその純潔を散らされ、エルフとしての尊厳を失くし──。

「……っ」

 何かにつまずく。

 彼女はそのまま地面に倒れ伏した。その隙に追っ手が彼女へ追いついた。

「ぐへへ……」

 下卑げびた視線。下卑た笑み。

 男はナイフを片手に、その顔を醜悪に歪める。彼女は疲労でもはや抗うことなど出来ない。このまま、己はこの男に犯されるのだろうか。

 涙が、こぼれる。

「はっは、泣いても誰も助けァしねえよ。何せお前は『亜人』なんだからなァ」

 この世界で彼女のような『亜人』は迫害の対象だ。

 ゆえに、誰も助けてはくれない。同族ならまだしも、人間が『ヒトもどき』へ救いの手を差し伸べてくれるはずがないのだ。

「『お楽しみ』といこうかァ」

「あ、ぁあ……」

 その手が、彼女の身体に──。

 ぞくり。

 彼女の肌が粟立あわだつと同時、男の手が止まった。男は額から多量の脂汗を流し、ガタガタと震えている。彼女も同様であった。

 彼女の視界には、男の背後には──天には、一人の少年がいた。

 純白の髪に深紅の瞳をした、大変美しい──美しすぎる少年である。彼女は恐怖すると同時に、見惚れしまった。エルフの美貌を遙かに超える美しさ、それに見惚れてしまったのだ。

 そして、気付いた。少年の背に、一対の翼があることに。

 天使のようであった。その翼が漆黒に染まっていなければ。


「──何をしている?」


 美しい声音。

 少年の問いかけに、二人は答えられない。声を出せないのだ。

 まるでそれが失われたように、言葉を発することが出来ない。

「この状況を見るに、彼女が襲われそうになっているってところか」

 少年は降り立ち、こちらへ歩み寄る。

 そして──。

「──」

 目の前の男が、胸を貫かれた。

 少年がその腕を引き抜くと、男は地に倒れる。

「大丈夫?」

 彼女は気付いた。

 心臓の鼓動が早まっていることに。恐怖ではない。

 そう、それは──。

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