魔王カルマによる世界征服への道

藤の宮トウン

第一章:魔王、誕生

第1話:魔王への転生

 銀河。

 それが堂々と空にった。

 流星群だろうか、今も星の雨が空から流れ落ちている。

「やあ」

 そして、その銀河以上に美しい女性がそこにいた。

 長く伸ばしている頭髪は虹色に煌めき、その瞳は黄金に輝いている。僕は彼女を見て、美しさと同時に恐怖を感じた。

 しかしてそれは、ただの恐怖ではない。それは──そう、『畏怖いふ』だ。

 ただの人間が己より遙か『高位』の存在と出会ったような、そんな畏怖。

「……ぁ」

 誰ですか、そう問いかけようとして、声が出ない。

 そんな様子の僕に、彼女はくすくすと笑った。

「ああ、ごめんごめん。……これでいいかな?」

 先ほどまで抱いていた『畏怖』がふっと消え失せた。

 少しして僕は少しの混乱と共に、「貴方はだれですか……?」と問いかける。ついでに、ここはどこなのかも。

 美しい笑みをたたえ、彼女は──。

「私は全てを統べる『神』。そしてここは『輪廻の狭間』だ」

 神。そして輪廻の狭間と言う言葉。

 にわかには信じられない言葉だった。

 存在するかも分からない神が目の前におり、輪廻の狭間というわけの分からない場所に僕はいる。それらが本当のことならば、僕はとんでもない偉業を成し遂げたかもしれない。

「君、かなり不幸な人生を歩んでいるね?」

「え、あ、そ、そうですね」

 彼女の言う通り、僕の人生は不幸の連続だった。

 両親は事故で死に、引き取ってくれた親戚も死に、毎日のように借金取りから追われ……今まで起きた不幸を挙げたらキリがない。

「そんな君に朗報だよ」

「朗報?」

「君を、異世界へ『転生』させてあげよう!」

 そう高らかに言う女性。──神様と言ったほうがいいか。

「てん、せい?」

「ほら、よくあるでしょ。現代で死んで、剣と魔法の世界に生まれ変わる、的なお話がさ。その権利を、君に与えてあげようと言うわけさ」

 神様が言うには、これは単なる気まぐれらしい。

 気まぐれで、暇つぶし。映画を見るように誰かの人生を眺めて、暇を潰したいのだそう。

 そして神様はそこでどんなことをするか、それを選べるとも言った。

 どこかの国の王様になって女の子を囲ったり、その世界を冒険する者になったり、英雄にもなれるのだそう。

 とても魅力的だ。僕が願えば幸福な人生を歩めるのだから。

「さあ、どんな人生を歩みたい?」

「……」

 幸福な人生。それもいい。

 けれど、僕はそれを選択しなかった。僕はどこか、壊れていたのだろう。

 だから『それ』を選んだ。

 僕が歩む人生は──。


「『魔王』になりたい」

 

 神様は驚愕したように眼を見開いた。

 そしてすぐさま笑みを浮かべる。

「く、くふふ……君は王様でも英雄でもなく、魔王を選ぶか」

「駄目ですか?」

「いや、駄目じゃないよ。魔王になりたいのなら、それ相応の『力』も与えよう。あとはそれっぽく『配下』も必要だね」

 そして──。

「では、その願い通り君を『魔王』に転生させよう。魔王となりて人類を破滅させるもよし、世界をより発展させるもよしだ。──君の『人生』がいいモノになることを祈るよ」

 眠りにつくように、僕の意識は闇へと沈んだ。

 

    *

    

 ──そして、僕は目醒めた。

 視界に映るのは、豪奢ごうしゃな天井。と言うより、天蓋てんがいだろうか。それは窓の外から差し込む陽射ひざしで煌めいている。

「……魔王城、か」

 神様の計らいだろうか、この世界についての知識が僕にはあった。

 僕が今いるこの場所は『魔王城』らしい。かつての魔王がここを根城にしていたとか。

 現在は誰もおらず、今この場所にいるのは僕だけ。

「おお……」

 寝室らしき部屋から出てみると、そこには如何いかにもお城って感じの廊下が広がっていた。廊下はとても長く、何十メートルあるのか分からない。

 もしかすれば百メートルはあるかもしれないな。

「中庭すご」

 廊下の大きな窓から見える中庭は、もはやちょっとした森であった。

 色々な植物が生え、木々の枝には小鳥が休憩している。

 そして窓には僕の姿が反射していた。

「すごぉ……」

 僕は純白の髪に深紅の瞳をしており、人間離れの美貌を誇っていた。

 めちゃくちゃ美少年である。年齢は十五歳とかそこら辺だろう。

 特徴的なのは背中から生えた一対の翼だろうか。天使のような翼ではあるが、真っ黒に染まっている。

 それから、僕は城内を探検した。何もなかったけど、何かの倉庫みたいな場所だったり、厨房だったり、色々な部屋があった。

「ここは……」

 先ほどまでとは雰囲気が違う場所。

 荘厳そうごんたる雰囲気を醸し出すこの場所には、『玉座』が在った。知識によると、この場所は数百年間ほど放置されているらしい。

 しかし、そこはそれを一切感じさせなかった。

「これはなかなか……」

 試しに僕は座ってみる。

 玉座の座り心地は最高。高級なソファに座っているようだ。

 そして、玉座に座してこの空間を眺める。何とも魔王って感じだ。

「……あ、そういえば僕には色々な能力があるんだっけ」

 ふと、僕はそんなことを思い出した。

 僕は意識をそこへと向ける。すると、能力を確認出来た。

 僕の能力は──。


『使役』

『召喚:悪魔』

『転移の魔眼』

『魔法適正:全』

『王のカリスマ』

 

 と、五つの能力があった。

 まず『使役』という能力だが、この世界に存在する『魔物』という生物を使役しえき、つまり好きに動かすことが出来るらしい。人間の街を襲えとか命令すれば、その通りに動くだろう。

 次に『召喚:悪魔』はその名の通り、悪魔を召喚出来るものだ。召喚した悪魔はもれなく僕の『配下』となるのだそう。

『転移の魔眼』は発動させると、好きな場所に一瞬で移動出来るという便利なものだ。一度行ったことのある場所じゃないと発動しないらしい。

『魔法適正:全』は全属性の魔法が使えるというもの。

 最後に、『王のカリスマ』は統率する力が上昇する、とのこと。

「強いなあ」

 流石は魔王ぼくだ。

「……僕の名前ってどうしよう」

 この世界で僕の名前はまだ無い。

 前世の名前は……雰囲気的に合わないな。魔王なんだから、もっとカッコいい名前がいい。

 これから人類の敵になるであろう魔王の、かっこいい名前……。

「……カルマ。うん、いいな」

 何か、それっぽいから採用。

 よし、今日から僕は『カルマ』と名乗ろう。

「ふ、ふふふ……」

 ここから僕の物語が始まる。

 

 魔王カルマの物語が。

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