第2話レースカーテン越しの木漏れ日☆

 新妻竜にとって、あの夢は強烈すぎた。


普段から優しい虎時が、よもや三々九度の盃を竜に投げてよこすなんて。


 それって、それって!!


 どんなに天然な新妻竜でも不安になり過ぎる要素大ありだ!


 軽やかにレースカーテンが風に揺れる。


 虎時がすでに起きていたのだろう。キッチンの向こうから、皿を取り出す音が聞こえてきた。


 竜は、薄目を開けて時計を見た。「ああ、まだ十時だ。寝てよう」そう思った。


――なにせ、今日は仕事がお休みなのだ。


 竜が目を覚ました気配に気がついたのかコップを二つ持った虎時が小声で話しかけてきた。


 「竜ちゃん、目が覚めましたか? 」


 「ううん、まだ眠ってる」


 「どうです、ココアを入れたので飲みませんか? 」


 そう言うと、虎時は水滴のついたコップを竜に差し出した。


 「ありがとう、虎時さん。でも、虎時さんもまだ休んでいてもいいんだよ? 」


 「俺はじゅうぶん、休みました」


 竜は、目を細めて冷たいココアに口をつけた。


 埼玉は五月も半ばになると、ほのかに暑い。


 「竜ちゃん、それでは今日はどこへお散歩に行きましょう? 竜ちゃんの行きたいところはありますか? 」


 ごくりとココアを飲み込んで、竜は虎時の顔をしげしげと見つめた。


 「虎時さんは、お散歩したいの? 」


 竜は、いつも不思議に思っていた。


 虎時は、休日になると「散歩へ行こう」と必ず誘うのだ。


 その散歩が、買い物だったりするのであればそれをするのだが。


――そうでない時は、


 「嫌だよ、たまのお休みくらい家でゴロゴロしていたいよ」


 そうなのだ。「私は、休日はゴロゴロしていたい派だけど。どうして虎時さんはお散歩したいのかな? 」そう、いつも散歩へ行こうと言われると、もうそれさえ不思議だと思わなくなっていく。


 「それでは、午後二時には家を出ましょう」


 竜は、立ち上がるとキッチンに空になったコップを置きに行こうとしたが虎時はコップを受け取りキッチンに置きに行ってくれた。


 「虎時さん、ありがとうございます」


 「いいですよ。ついで、ですから」


 虎時は、スモークチーズを乗せた皿を持って戻って来た。


 「竜ちゃんも、食べますか? 」


 「食べたい」


 虎時が勧めてくる食べ物は何でも美味しかった。「私が食材を選ぶより高級で通な食材なんだよね」しかし、共働きとは言え食材を買うのは専ら竜だ。普段の料理は格別に美味しいとまでは言えないが、まずくも無く。ごくごく一般的な料理が並ぶ。「でも今は」竜はスモークチーズの美味しさに酔いしれる。


 口いっぱいに広がるスモークチーズの濃厚な味が竜の感覚を刺激する。


 「ねえ、虎時さん! メイドさんがいるアキバに行きたいな! 」


 竜は埼玉に住んで久しいが、アキバは行ったような記憶がもう既にあやふやだ。「恋人同士の暇つぶしにはなるだろうし。ってか、私達はもう夫婦だった。あまりにも展開が速すぎて夫婦になったって気がしな――」そこまで脳内会話した瞬間、虎時が呟いた。


 「アキバ……ですか」


 軽く何かを考え込むようなそぶりを見せる虎時。竜は少し不安になった。


 「そ、そうだよね、虎時さんも毎晩深夜までお仕事だし。ちょっと岩槻ここからだと遠いから行きたくないよね」


 虎時はニコッと笑った。


 「いやいや、そうではなくて。ふと思い出したんだ。――今日は朱雀が店舗でコスプレ衣装の販促する日だったな」


 「販促? 」


 「呉服屋呉の新作コスプレ衣装、その名も『ガラスの白竜娘とその婿』らしい」


 「へぇ――、そうなんだ! 虎時さ――ん。それなら、朱雀さんのお店にも寄ってみたいな! 」


 「えぇ! 嫌ですよ」


 「え? なんでよ? 」


 「だって……その。――はい、わかりました。それでじゃあ竜ちゃん、アキバ観光にでも行きましょう!」


 虎時は立ち上がった。


 竜もそれにつられて立ち上がったがふと、脳裏に昨夜見た夢を思い出していた。「私にならって……いったいなんなのよ」そう思った。


 


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