第3話 慰労会
「お疲れ様でした!」
水貴、スミレ、井上、倉柳。四人は居酒屋のテーブルを囲んでいた。
今日は、倉柳の研修発表の慰労会だ。
「別に気を遣ってもらわなくてもよかったのに。でも、ありがとう」
倉柳はそう言って、ふっと笑った。
ここ数日の緊張から解放されて、ようやく肩の力が抜けた様子だ。まだ疲れは残っているだろうが、所作のひとつひとつにキレが戻っている。
軽く乾杯してから、倉柳はハイボールを口に運び、くいっと半分ほど一気にあけた。
「主任の発表、好評でしたね。成年後見人がついてるケースって珍しいから、私も参考になりました」
刺身盛りを取り分けながら、水貴が言う。
「わかってるじゃない、松原。あんたもそろそろ上司の立て方ってやつを覚えてきたねぇ」
「や、そんなつもりは……」
決まりが悪そうに返す水貴を見て、井上が苦笑する。
「松原さん、そこで真面目に返すから主任さんにからかわれるのよ」
「まあ、そこが可愛いのよ」
「人を子どもみたいに言わないでください」
むくれる水貴に、倉柳と井上は思わず笑ってしまう。
からかってはいるものの、決して軽んじているわけではない。生真面目な水貴がこの二人にはあっさり手玉に取られるのがいつもの光景で、スミレも笑いをこらえながら見守っていた。
むくれる水貴は普段見られない。その表情が、なんだか新鮮だった。
「斎藤はどうだった? ケアマネ向けの話ってことで、成年後見人制度とは――みたいな初歩の部分は省いたけど。歴の浅いケアマネにはちょっと不親切だったかもしれないわね。まあ、時間も限られてるし」
「いやー……私は長い研修だと眠くなっちゃいますし。主任さんの話はテンポが良くて聞きやすかったです」
「内容に触れないってことは、難しかったかしらね?」
倉柳が冗談めかして目を細める。
「いえっ……! あ、ケース検討形式だったんで、判断のポイントとか、どこでどう解決したとか、すごく勉強になりました!」
「焦らなくてもいいのに」
倉柳は苦笑し、またグラスを手に取った。
「内容は伝わってるみたいで安心したわ。普段の斎藤見てたら伝わらないとも思ってない。信頼してるわよ」
「主任さんクラスになるといろんな司法書士さん知ってますもんね。凄いなあって思っちゃう」
井上の手にはいつの間にか2杯目のワイングラスがあった。いつ頼んだのか。一瞬気にしたが、いつもの事だと思い直し、井上以外のメンバーはスルーした。
「それでも中々見つかんない時もあるのよ。どの先生も忙しくしてるしね。引き受けてくれたはいいけど相性が悪かったり、なんてこともあった」
井上が同調する。
「私が思いあたるところだと、やっぱり本人の理解かな。このままだと判断能力が落ちて介護サービス使うにも施設に入らなきゃいけないって時に、契約できませんってなったら困るのは本人ですけど」
「それでも受け入れない人は受け入れない、よねぇ。わかる。
その点、松原は口が上手い。こんなの本人納得しないんじゃないって気難しい人でも、いつの間にかサービス入れてるんだから、どんな手を使ってるのかしらね」
「それ、褒めてます?」
「褒めてるに決まってるじゃない」
当然でしょ、とばかりに倉柳は笑う。
「そういうところ買ってるのよ、あたしはね」
微笑んで倉柳はメニューを手にした。アルコールのおかげで饒舌になり、溜め込んだストレスはどこかに行ってしまったらしい。
この職場はお互いに支え合い、労い合う
ーーそういう自然な空気がある。
それが水貴とスミレには心地よいものだった。
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