幽霊橋
「この橋、幽霊橋っていうらしいぜ」
隣に立つ男が言った。
破裂音が響く。空にも川面にも光の花が咲いた。屋形の中の上司達も、酔い醒ましにデッキに出てきた同僚達も、もはや誰も花火は見ていないが。
屋形船は今まさに男の言う「幽霊橋」の下を通ろうとしている。
「出るらしいよ」
彼はにやりと笑った。
橋の上にも賑やかな花火見物の群衆がひしめいて幽霊なんか出そうにない。
そう思って苦笑していたら、橋の真下で街の明かりが一瞬だけ視界から消えた。
ふと私は気が付く。
隣にいる男は誰だっけ?
この船には見知った同僚達しか乗っていないはずだ。
船が橋の影から滑り出た。
隣には誰もいない。
呆然と佇む私の頭の上で、一際大きな花火が上がった。
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