ラピスラズリ 1章
ある画家が亡くなった
彼はこの辺じゃ有名で彼の腕の上に立つものはいなかった。
彼の描く絵は特徴的で、ユニークなものがほとんどだった。街の喫茶店や駅なんかにも彼の絵は飾られていた。もちろん描いてもらったものだろう。
彼の絵を見るためだけに遠くから遥々訪れる旅行客も、放浪者もこの街が最終目的地。
そんな放浪者の一人であった「」は12年前にこの街へ来た。
当時「」は前に住んでいた町の工場が潰れ失業してしまった。製造課長であった彼は特に金を使う趣味もなく、有り余っていた貯金で放浪の旅に出た。1年ほど放浪を続け、この町へ辿り着いたのだった。
最初に入った喫茶店の気さくなマスターにその趣旨を話すと、「うちで働かないか?この町は移住者が集まって成り立っているようなもんでな。店の裏路地に空き部屋があるけど、考えはどうかな?」
「」は大きくいいんですか?!とその話に合意した。
それから数年が経っただろうある日のこと。マスターは病気気味でここ数日喫茶店へ来れていなかった。「」はひとり、修行した腕前でお客に逸品を振る舞っていた。
入り口のベルがカランカランと音を立てる。ベレー帽を被ったダンディーなお客が来店した。重厚だが、絵の具でカラフルになった鞄を片手でもちキャンバスを抱え彼は奥の方の席へ座った。
座るやいなや手を上げて呼んでいるらしかった。「」は注文を聞きに行くと、彼はメニューのコーヒーの文字を指さしでさした後に1つと指で示していた。ぶっきらぼうな人だと思いながらも「お待ちください」そう言って「」はキッチンへ戻った。
ホットコーヒーを運んで数十分経ったが彼はコーヒーに手をつけていなかった。マグカップの代わりに手には鉛筆、デッサンをしていたのだ。意志を鉛筆の先端に任せ線を書き上げている。
カウンター内から見える彼はまるで、何か曲を奏でている演奏家のような趣があった。
しばらくすると、彼はコーヒーを数回で飲み干して、代金を置いて店を後にした。心情を掴むのが難しい人であるが、きっと情熱を持った人であろう。そう思った「」はカップと代金を下げに行った。
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