第3話 謝罪と提案

「………本当にすまんことをしてしまった」


「いえ…………」


 老人は、涼華が泣き止むまでずっといてくれた。



 何分も、何十分も———



 そして今、二人はテーブルに向かい合いながら椅子に座っている状況にいる。


「…………どうして、こんなことになったのですか? それに、おじいさんは一体何者ですか?」


 涼華は、涙の跡を残しながら老人に問いかけた。


「ふむ………どこから説明しようかの…………」


 老人は、長い髭を撫でながら話していった。


「まず、最初の質問じゃが、儂が管理している二つの世界———お嬢さんの元いた世界ともう一つの——————異世界というかの。その異世界で、ある者がその両世界の狭間を捻じ曲げようとしたのじゃ。その捻じ曲がった先が儂の空間とお嬢さんの家に繋がってしまったのじゃ。儂は、急いで塞いだのじゃが…………」


「———そこに、私が入ってしまった」


「…………うむ。…………そして、二つ目の質問じゃが、この話で何となく気づいていると思うのじゃが、儂は人間から言われている【神】という存在じゃ」


「神様…………本当にいるのですね」


 涼華は、納得したような顔で老人———【神】の話を聞いたのだった。


「でも、神様だからと言って何でも出来るわけではないと」


「———そうじゃの。お嬢さんの言う通りじゃ。あまり人間の住まう世界をいじると、混乱を巻き起こす可能性があるからの」


「なるほど…………」

 

 涼華は、【神】の返答を聞き、


「じゃあ、私はこれからどうしたら…………」


 そううつむきながら膝に置いていた両手をギュッと握った。


「そのことなのじゃが…………」


 思い悩んでいる涼華に【神】は、こう告げた。


「お嬢さん、異世界で【半神デミゴット】として生きていくのはどうかの?」

 



 そう提案したのだ——————。



 ◇◇◇

 とある日の夜、小さな丘から村を見下ろすいくつもの人影が見えた———。


「今日の獲物はあそこが良さそうだな」


「あぁ———。他よりも裕福そうな村だし、結構収穫がありそうだ」


 そんな不穏な話をしている話し声がチラホラ聞こえてくる中、雲間から月の光が次々と人影を照らしていく。


 すると、どうだ———ギラリと光る鋭い武器を持った獰猛な表情をしたガラの悪い男達が馬に乗って次々と現れてくるではないか。

 

 

 どうやら———盗賊のようだ。



かしら、どうします?」


かしら】と呼ばれている———熊かと思うほどの大柄な男に盗賊の一人が話しかけると………


「決まってるだろ」


【頭】がニヤリとしながら言う。

 すると、他の者達も同じように笑いながら————合図を待つかのように一斉に静まった。


「おめぇら、この村の金目のものを頂いていくぞ!」


【頭】は、自身の得物である巨大な大斧を肩に担ぎ、手下の者達にそう叫んだ。


『おぅ———‼』


 その雄叫びと共に盗賊達は村に向かうため、馬を走らせていく。


 

 ドドドドドドドッ



 村の入口まで近づくと村の者達も気づいたのか、慌ただしく行動していたが…………


「ハッ、無駄だ!」


【頭】は鼻で笑いながら、手下達と勢いよく村に侵入したのだった。


「キ、キャァァァ———‼」


「と、盗賊だ——!」


 村人達は、恐怖の叫びを挙げながら逃げ惑った。


「オラオラァ!金目の物よこせや!」


 そう言いながら、【頭】とその手下たちは武器を振り回し、村人たちを斬りつけていく。


「だ、誰か、助け———!」


 一人の若者が傷ついた体を引きずりながらも、助けを求める声を上げるが———。


「ふんっ。何言ってやがる。こんな夜中に助けなんて来ねぇよ!」


【頭】は、残酷に告げ——————若者の後ろに立ち、大斧を勢いよく振り下ろした。


「ヒッ!」

 


 斬り殺される————



 若者は悲鳴を上げながら悟り、ギュッと目を閉じた。

 

 終わった…………そう誰もが思う光景だった。



 ———その時。




 キイィィィン!




「なっ!」


【頭】は、予想外だというような驚き声が聞こえた。


「?」


 若者は不思議に思い、固く閉じた目をゆっくり開けると———

 

 長い銀髪を一纏めに結い上げ、遠い異国にあると言われる一振りの刀を持った————が仮面を付けて、恐れることもせずそこに立っていた。


「えっ?」


 若者は、頭を横に向ける。


 ———そこには、自分に振り下ろされるはずのものが突き刺さっていた。


「———は?」


 やっと気づいたのか、【頭】は自慢の武器を見てポカーンとした声を出していた。


「お、俺の、大斧が………… !」


 そう、【頭】が持っていた大斧は持ち手のところから先がスパッと切り落とされていたのだ。


「あ、あのっ———ッ!」


 若者は声をかけようとしたが、体の傷が痛み顔を引きつらせた。

 すると、は【頭】の方を向きながら若者の前に片手をかざすと———やさしい光が溢れ出てきた。


 光は、若者の体を包み込み———傷と言う傷を癒していったのだった。


「こ、これは! 治癒魔法⁈ 」


 治癒魔法。


 それは、怪我や病気を癒す高度な魔法———。


 その魔法を使える者は、王都にいるような治癒師や王宮で重要な役職に就いている者達ぐらいだ。

 そんな、貴重な魔法を扱えるこの彼女ひとは一体———そう若者が思っていると、かざしていた手がピッと人差し指を出す形に変わった。

 

 そのしぐさは、まるで「早く逃げなさい」と言っているかのように————。


「あ、ありがとうございます!」


 若者は礼を言い、バッと走ったのだった。


「てめぇ、何者だ!」


【頭】は、頭に青筋を浮かべ叫んだ。


 そして———


 ふと、手下達から聞いたよみがえってきたのだった。

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