第11話「再会」

第11話「再会」



 城下町へ向かう馬車の中で、僕は緊張していた。

 半年以上、城下町には戻っていない。

 あの時、別れを告げた場所。思い出の場所へ、久しぶりに戻る。

 馬車が城下町の入口に着いた時、僕の心は高鳴っていた。


 西門から城下町に入ると、風景は少しだけ変わっていた。

 石畳はさらに平らになり、街路灯は増えて、街全体が清潔になっている。

 あれ、この改善は……僕がいなくなった後の工事だ。

 ガルドたちが、引き継いで進めてくれたんだろう。

 その思いが、心を温かくした。


 市場に向かうと、懐かしい顔がいた。

 ガルドが、職人たちと打ち合わせをしていた。

「ガルド!」

 僕が声をかけた。

 ガルドが振り返り、表情が一瞬固まった。

 その次の瞬間、顔が綻んだ。

「優真!」

 ガルドは大声を出して、僕に駆け寄ってきた。

「お前、久しぶりだな!」

「ガルド、お疲れ様です」

 ガルドは僕を力強く抱きしめた。

「元気そうで良かった。王城での仕事、うまくいってるか?」

「はい。環境整備魔法局という新しい組織の長になりました」

「局長!?」

 ガルドは驚いた顔をした。

「そっか。お前なら、そくらいになってしまうんだな」

「それもガルドさんのおかげです。あの時、背中を押してくれたから」

「何言ってんだ」

 ガルドは笑った。

「お前の魔法は本物だって、最初から知ってたぜ」


 ガルドに案内されて、城下町を一周した。

 南門の橋は、しっかりと補強されている。

 大通りの石畳は、さらに平らに整備されている。

 公民館の周囲も、綺麗に整えられている。

「お前が去った後も、我々は頑張ったぜ」

 ガルドが説明した。

「お前がやってくれたことを見て、俺たちも『もっと丁寧にやるべき』って気づいたんだ」

「そっか」

「お前の魔法と同じ。派手じゃないけど、確実に街を変えていく。その積み重ねが大事なんだ」

 ガルドはそう言って、僕の肩を叩いた。

「これからも、二人で頑張ろう。お前は王国全体を支え、俺たちはこの城下町を支える」

「わかりました」


 昼間、僕は古い酒場に寄った。

 ガルドや職人たちと一緒に、昼食を取ることにしたのだ。

 酒場のマスターは、僕を見ると驚いた。

「あ、優真さん。久しぶりですね」

「こんにちは。相変わらずですね」

「ええ。いえ、実は少し違うんですよ」

 マスターは微笑んだ。

「最近、このあたりのお客さんが増えたんです」

「本当ですか?」

「ええ。街が歩きやすくなったってことが知れ渡ったらしくて。みんな『このまちはいいぞ』って言ってくれるんです」

 マスターは嬉しそうに言った。

「あなたのおかげですよ。あなたの魔法が、この街を変えたんです」

「いえ、ガルドさんたちの仕事があってこそです」

「謙虚ですねえ」

 マスターは笑った。

「まあ、何にせよ、この街は良くなった。それが一番大事ですよ」


 夕方、僕は公民館に向かった。

 あの時、リリアに出会った場所だ。

 公民館の前に着くと、一人の女性がいた。

 見ると、それはリリアだった。

「リリア?」

 僕は驚いた。

「優真さん!」

 リリアは嬉しそうに走ってきた。

「こんなところで、どうしたんですか?」

「実は、城下町について、調べたいことがあったんです」

 リリアは説明した。

「優真さんが最初に働いた場所。その現在の状態を見たくて」

「そっか」

「そしたら、ガルドさんから『優真さんが今日来る』って聞いて、ここで待ってました」

「そうなんですか」

 リリアは僕を見つめた。

「城下町は、素晴らしい街ですね」

「そうですか?」

「ええ。あなたが去った後も、ガルドさんたちがあなたの魔法の理念を受け継いで、街を改善し続けている」

「ガルドたちは、素晴らしい人たちです」

「ええ。そして、その根本にあるのは、あなたの思想なんです」

 リリアは微笑んだ。

「誰も気づかない支援。その価値を、彼らは理解している」


 その夜、僕はガルドと一緒に酒を飲んだ。

 酒場の二階の個室で、二人きりだった。

「優真、本当に良かったな」

 ガルドは杯を傾けた。

「お前が、こんなになるとは」

「僕も、予想していませんでした」

「だろう」

 ガルドは笑った。

「あの時、追放されて、ここに来た時のお前の表情。覚えてるぜ」

「……」

「悔しくて、悲しくて、でも前に進もうとしてた」

 ガルドはそう言って、僕の肩を叩いた。

「その姿勢が、全てだ。お前の魔法は地味だけど、その心構えは素晴らしい」

「ありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとう。お前のおかげで、この街は変わった」

 ガルドは杯を上げた。

「これからも、頑張ろうぜ」

「はい」

 僕も杯を上げた。


 翌朝、僕は公民館を訪れた。

 この建物は、今も子供たちに本の読み聞かせをしているらしい。

 中に入ると、女性が本を読んでいた。

 リリアだった。

「おはようございます、優真さん」

「リリア、何をしてるんですか?」

「子供たちに、本を読んであげているんです」

 リリアは微笑んだ。

「この公民館が素晴らしいから、ここで何かしたいって思ったんです」

「そっか」

 子供たちが、リリアの周りに座っている。

 彼らは、真剣に本の話を聞いていた。

「この街は、素晴らしいですね」

 リリアが言った。

「あなたと、ガルドさん。そして、多くの人々の努力で、こんなに素敵な街になった」

「そうですね」

「優真さん、これがあなたが作った『歩きやすい世界』なんです」

 リリアは子供たちを見つめた。

「彼らが、安心して、快適に、この街で過ごせる。その基盤を、あなたが作った」

「……」

 僕は、子供たちの笑顔を見た。

 確かに、彼らは安心そうに笑っている。

 街が歩きやすいから。

 施設が快適だから。

 その全てが、小さな支援の積み重ねで成り立っている。


 その午後、僕は城下町の全体を見渡す場所に立った。

 街壁の上からの眺めだ。

「綺麗だ」

 リリアが隣に立った。

「この街も、本当に良い街になりました」

「ガルドたちと、その他の人々が作った街だ」

「いえ、あなたが最初の一歩を作ったんです」

 リリアは僕を見つめた。

「あなたがいなかったら、この街はこんなにはならなかった」

「……」

 僕は街を見つめた。

 城下町。

 最初に僕が働いた場所。

 追放されてから、唯一、僕を受け入れてくれた場所。

「ありがとうございました」

 僕は呟いた。

「何ですか?」

「この街に。ガルドに。全ての人に」

「優真さん」

 リリアは僕の手を握った。

「あなたは、本当に素敵な人です」


 三日間の城下町滞在を終えて、僕は王城に帰ることにした。

 ガルドが見送ってくれた。

「また来いよ」

「はい。定期的に来ます」

「そうか。待ってるぜ」

 ガルドは力強く手を握った。

「お前の報告、楽しみにしてる」

「わかりました」

「そして、王城でも、全国でも、頑張ってくれ」

「はい」

 馬車は城下町を離れていった。

 後ろを見ると、ガルドが手を振っていた。


 王城に帰った後、僕はリリアと一緒に、これからの計画について話し合った。

「城下町での経験から、わかったことがあります」

 僕は言った。

「支援魔法の理念を、一人の人間だけで広げるのではなく、多くの人に理解してもらう必要がある、ということです」

「つまり?」

「城下町では、ガルドたちが僕の理念を受け継いでくれた。だから、僕がいなくなった後も、街は発展し続けた」

「その通りです」

「全国でも、同じことをすべきだ」

 僕は決断した。

「支援魔法使いたちが、各地の責任者や職人たちと協力して、『歩きやすい世界』を作っていく」

「それは素晴らしい考えですね」

「ええ。そして、その理念を全員で共有することが大切です」


 翌月、環境整備魔法局は新しい方針を打ち出した。

「我々の目的は、誰も気づかない支援で、世界を変えることだ」

 僕は全スタッフに向かって言った。

「派手さは必要ない。でも、その価値を、現地の人々に理解してもらうことは必要だ」

「どうやって?」

 ジャックが尋ねた。

「現地の職人たちや責任者たちと、心を通わせることだ」

 僕は言った。

「ガルドのように、僕たちの理念を理解してくれる人を探す。そして、彼らと一緒に『歩きやすい世界』を作っていく」

「わかりました」


 その夜、僕は新しい手紙を書いた。

 今度は、全国の支援魔法使いたちへの手紙だ。

『全ての同志へ

 これからの戦いは、一人で戦うのではなく、多くの人と一緒に戦うことになります。

 派手さは必要ありません。でも、心は込めてください。

 誰も気づかない支援も、その価値を理解してくれる人がいます。

 その人たちと心を通わせることで、初めて『歩きやすい世界』が完成するのです。

 全国の同志たちよ、共に頑張りましょう。

 優真より』

 手紙を書き終えて、僕は城壁の上に立った。

 月明かりの下、王都が静かに輝いている。

 城下町、王城、北貴族領、港町、採鉱町、農村地帯。

 全てのところで、支援魔法使いたちが働いている。

 誰も気づかない"歩きやすさ"で、この国全体を支えている。

 それが、僕の使命だ。


第11話 了


次回、第12話「新しい試練」に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る