5話

「帰ってください!」

一ヶ月近く経った頃、いつものように病室に行くと珍しい彼女の怒声がドア越しに響いてきた。中に入るとそこにはあの憎たらしい「奴」がいた。

「どうして信じてくれないの、雛子! 目を覚ましてよ!」

「彼はそんな人じゃありません!二度と連絡もしてこないでください!」

 雛子と柊木は言い合いに夢中でこちらに気づいていないようだ。

「どうしてここにいるんだ柊木!」

突然聞こえた俺の声に二人とも驚いた顔で俺の方を見た。

「しばらく連絡が無かったからダチのツテで教えて貰ったんだよ! つか、お前こそなんでここにいるんだよ!」

「『雛子の彼氏』だからだ! それ以外に理由は無い! いいからとっとと帰れ!」

「っ……くそ!」

バンッ!

彼女は乱暴にドアを開けて出て行った。そのとき、何か言っていたが怒りで言葉になっておらず、全く分からなかった。

「怖かった……」

雛子は半泣きで俺に縋り付いてきた。

「何があったの?」

「あの人ね、斗眞さんに対して酷いことをいっぱい言ってきたの。連絡もしてくるし、もう怖くて怖くて……」

「そっか。もう大丈夫だよ」

「うん、ありがとう」

 初めはあんなに敬語でよそよそしかった彼女も一ヶ月経って下の名前で呼んでくれるようになり、さらに俺のことも信用してくれるようになった。もうそろそろあのことを話しても良いかもしれないな。

「なあ雛子、突然だけどさ」

「なあに?」

「もうすぐ退院だろ? 退院したら……」


「俺たち結婚しないか?」

 

ずっと前から考えていた。退院したら彼女は元の家で一人暮らしをすることになる。そうなると、彼女を世話するのが大変になるし、かといって一人にするのも心配だ。良い案だと思うのだが……流石に急過ぎたか?

「……はい」

俺の心配はどうやら杞憂だったようで、彼女は頬を桜色に染めてはにかみながら返事をした。


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