付喪な死怨の亡り代わり
ガルバンガン
プロローグ
「やっと捨てられた」
ワタシを捨てたあなたの声が、綿の中に染み込んで魂の中で反芻する。
ワタシはしがないくまのぬいぐるみだ。
テディベアともいうらしい。
ワタシの持ち主……主人は笑顔の似合う良い子だった。ワタシをずっと抱きしめたまま離さなかったこともあった。
しかし、成長とともに、私に触れる機会は減っていった。
ある日、主人に運ばれ車に乗せられた。
押し入れにしまわれた事もあり、久しぶりに見た主人は大人に成長していた。
ワタシは心を躍らせた。主人と久々の遠出だ、またかつてのように楽しい思い出になるだろう。
だが、わたしを待っていたのは、幼い頃の主人を共に支えた
主人はワタシを残骸の山に置くと、
「ここに捨てればバレないでしょ、はーあ。やっと全部捨てられた」
主人はそう言うと、車を走らせその場を後にした
ワタシは、主人が去ってようやく、自身が捨てられたことを自覚した。
主人はもうあの頃の良い子こではなく、悪い人になってしまったのだ。
それから恐らく3日程経った頃、ただ朽ちるのを待っていたワタシの前に、彼女は現れた。
「くまさん!」
ワタシより少し大きい少女は、私を指さすと、駆け寄りワタシを抱き上げるとそのまま連れて帰ってしまった。
帰宅早々少女は脚立を使い、妙に慣れた手つきで洗濯機を操作すると、気づけばワタシは綺麗に洗濯されてしまった。
その後、ワタシは少女に名前入りの首輪をつけられた。
首輪には『しおん』と書かれており、少女は満足そうにワタシを抱きしめた
そしてワタシは理解した。
この少女は新たな主人となったのだ。
その夜、帰宅した両親に主人はワタシを紹介した。
当然、娘が自分と同じくらい大きなぬいぐるみを拾ってきたのだから困惑することだろう、ワタシも再び捨てられるのではと戦々恐々した。
だが、主人はワタシを泣きながら抱きしめ、捨てられないよう尽くしてくれた。
主人の両親もその姿を見て折れてくれたようだ。
両親を説得してすぐ、疲れてしまったのか主人はワタシを抱き眠ってしまった。
以前の主人はくださらなかった名を与えてくださり、大人に立ち向かいワタシを守ってくださった新しい主人、この出会いを無駄にしてはならない。
もう二度と捨てられるようなことがないように。
たとえどんなことをしても主人を主人を守らなくては。
そう決意した直後ワタシは思わず主人を抱き返した。
何の奇跡か、この日を境にワタシは自らの意思で動けるようになっていた。
ようやく、この手で主人を守ることができる。
この身朽ちるまで、あなたをお守りします。
ちっぽけなぬいぐるみの決意は誰の耳にも届くことはなかった。
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