第19話 煮ても焼いてもまずいとうもろこしがあるらしい。

「今、お嬢ちゃんにあげたとうもろこしは煮ても焼いてもまずいんだよ。だから困ってるんだよ。せっかく、豊穣の女神様から頂いた新種のとうもろこしなのに……」


おいしい焼きとうもろこしを売ってくれた屋台の店主さんが肩を落としながら言う。私は今、煮ても焼いてもまずいとうもろこしをおまけとして貰ったようだ。ひどい。


「何か旨い食い方、あるんじゃないの? 『食品鑑定』スキルで見ればいいんじゃない?」


半分残した焼きとうもろこしをジグさんに押し付けたテッドが言う。ティナのお母さんも『食品鑑定』スキルで、雑草だと思われてた紫蘇を鑑定したもんね。新種のとうもろこしの鑑定もできそう。


「それがなぁ。『食品鑑定』スキルでは『熱すればおいしく食べられる』っていうんだよ。だから茹でたり焼いたりしたんだけど、硬くてどうにも食べられないんだ」


店主さんが焼き上がったとうもろこしを大皿に移しながら、言う。私は貰ったとうもろこしの皮をめくって実を見てみた。……なんか、この形状見たことある?

私は自分の記憶を探った。……そうだ。凛々子のママが見せてくれた画像と似てる。


とうもろこしでも、いつも食べてるとうもろこしじゃないって、あの時にママが教えてくれた。家のフライパンでポップコーンを作った時に、食べ終えた後にスマホでホップコーンになるとうもろこしの画像を見せてくれたんだ。


貰ったとうもろこし、実を削ぎ取って乾かして、それから鉄鍋に入れて蓋をして熱すれば、もしかしたらポップコーンになるかもしれない。


「ねえ、店主さん。このとうもろこしってどのくらい保つの? すぐに腐っちゃう?」


「いつも売ってる焼きとうもろこしよりは保つけど、いつまで腐らずに済むかはまだわかんねえな」


店主さんは正直者らしい。でも、まずい上に保存期間もわからないものを客の私に押し付けるってどうなの?

本当は、うちに帰ってお母さんと一緒にポップコーンづくりの実験をしたかったけど、熊と小鳥亭の台所を借りて実験するしかないかなあ。


「店主さん。このおまけのとうもろこし、二本ちょうだい。焼きとうもろこしを三本買ったから、おまけも三本欲しいなあ」


私は図々しく店主さんにねだる。おまけを貰っただけでもありがたいのに、さらにもっと欲しいなんてクレーマーなお客さんになっちゃうけど、でも私はポップコーンの実験用にもう少しまずいとうもろこしが欲しいの。


まずいとうもろこしをねだる私に、お兄ちゃんとジグさんが呆れた目を向け、店主さんは笑い出す。


「煮ても焼いても食えないとうもろこしを欲しがるなんて、本当に変わったお嬢ちゃんだな。いいぜ。持って行きな」


店主さんは気前よく、まずいとうもろこしを5本くれた。全部ジグさんの鞄に入れてもらった。だって私の鞄には、とうもろこしは一本でも入らないんだよ。


おまけの、まずいとうもろこしを貰った私は気合を入れる。そう、私が欲しいのはポップコーン実験用のとうもろこしだけじゃない。狙っているのは……醤油!!


「店主さん。お金を払うので、焼きとうもろこしのたれに使ってる調味料を売ってください!!」


「金は出さんぞ」


元気よく交渉をした私の隣から、ジグさんの無慈悲な言葉が聞こえる。私は縋るようにお兄ちゃんを見た。お母さんが持たせてくれたお金で、お醤油を買おうよ……!!


お兄ちゃんは無言で、両手を胸の前でクロスする。×の形は、ダメっていう意味だ。

醤油……買えない……。私はその場に崩れ落ちた。

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