第17話 神様や女神様でもひいきをしたりするらしい。

お兄ちゃんは無事に、叡智の神様の信徒になった。そして氷魔法のスキルを貰えたみたい。よかった。これで暑い時期には氷入りの水が飲めるし、かき氷が食べられるかもしれない。あと、アイスクリームを作れるかも!!


食堂の娘としても、日本人としても、冷凍庫がない今、お兄ちゃんの氷魔法にかける期待は大きい。


「次は商品登録の予約に行くぞ」


「よやくってなに? 俺、シソの塩漬けとかを取りに宿屋に戻るのかと思ってたんだけど……」


来た方向と別の方角に歩き出したジグさんを、私の手を引きながら追いかけ、お兄ちゃんが問いかけた。


「商品登録は、まずは予約っていう約束をしないといけないんだよ。面倒くさいが決まりだから仕方がない」


ジグさんは宿屋に泊まるための予約はしないけど、商品登録のための予約はするんだなあ。


商品登録をするための小殿の受付の神官は暇そうだった。ジグさんとお兄ちゃんの商品登録は三日後の午前になった。細かい時間は決まっていないんだって。大らか。

日本では、電車の時間も細かく決まってたから、ざっくりと午前中って言われると戸惑う。とりあえず、ジグさんに合わせて叡智の神殿に連れてきてもらえばいいよね。


「腹減ったー。なんか食べようよ。ジグ親方」


お兄ちゃんがジグさんにおねだりしたので、私も便乗する。皆で屋台が並ぶ広場に行くことになった。嬉しい。


広場に到着した。

広場の中央は噴水があり、ベンチがあって、屋台で買ったものを食べている人たちがいる。皆、割としっかりとした布地の服を着ているみたい。ジグさんは見劣りしない感じだけど、私とお兄ちゃんは貧乏な家の子みたいに見えるだろうなあ。


噴水から水を汲んで飲んでいる人がいる。汚くないのかな。


「ジグさん。あの噴水の水って飲めるの?」


飲めるなら、飲んでみたい。お腹が痛くなったら嫌だけど。


「飲めるぞ。あれは叡智の神殿から寄付された噴水で、常に浄水……綺麗な水が流れ出るんだ」


「誰かがゴミとか入れたりしないの?」


お兄ちゃんが、悪戯っこならではの質問をする。


「噴水に悪さしたら罰が下るぞ。叡智の神殿の神殿騎士が捕まえに来る」


「そんなの逃げればいいじゃん」


お兄ちゃんが笑いながら言うと、ジグさんは首を横に振った。


「逃げられないぞ。叡智の神様は罪人に厳しい。商品登録した商品を、正規の手続きを踏まずに売りに出した奴も罪人になる。だから、商品登録は大事なんだ」


「じゃあ、ジグさんが最初にハンガーを作ったのに、商品登録をしなかったらハンガーを作って売れなくなっちゃうってこと?」


「その辺は商品登録をする儀式でいろいろ判明するから、最初の開発者が不利益……損をすることは無いって話だ。叡智の神様は公平を尊ぶことで有名なんだ」


「公平って、どっちも尊重するってことだろ? そうじゃなくて、ひいきとかする神様っているのか?」


ジグさんの話を聞いたテッドが首を傾げた。私もお兄ちゃんに同意。神様とか女神様がひいきするなんてずるいっていうか、ひどい気がする。


「豊穣の女神様は、子どもや赤ん坊に優しい。子どもや赤ん坊をひどく傷つけたり殺したりした罪人には容赦が無いが、そうでない罪人には何度でも更生の機会を与えるそうだ。だから、豊穣の女神様の信徒の数は世界で一番多く、孤児院で受け入れる孤児の数も多いって話だ」


「じゃあ、豊穣の女神様は良い女神様なんだね」


お兄ちゃんが素直に言うと、ジグさんは肩をすくめる。


「犯罪の被害者にとっては、豊穣の女神様の甘すぎる判断だって意見もあるな。まあ、感じ方は人それぞれだ。それと、美の女神様は美形を優遇する。不細工には厳しいが、不細工でも美への憧れが強く、美しく在ろうとする者には導きの手を差し伸べるって話だ。その話を人から聞いた時に、信仰するのは無理だと悟った」


「ジグ親方はかっこいいよ!! だから美形だよ!!」


お兄ちゃんがきらきらした目でジグさんを見上げて言った。私はお兄ちゃんの言葉を肯定することができなかった。ごめん。ジグさん……。

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