第2話 怪しい部活があるらしい②
汚い筆跡から頑張って解析した結果、この部活には二人の部員がいることが分かった。
部長・五月雨真由。
今、俺の前にいる、本当に小さい少女である。この春に一年生としてここに入学して早々この奇妙な部活を開設した変な女の子だ。
「ところで、部長。今日はいったい何の用で?」
分厚い本を読みながら訊ねた。
「ああ、実は風紀委員から魔法研究部に関して、問いただされて……まあ、それで実際にどんなことしてるんか聞こうかとここに来たんだ」
「なぜ、私たちが風紀委員に目をつけられてるの?私は基本この部屋にいるんだけど……もしかして」
真由は眉間に皺を寄せた。
何か察しがついたのだろうか。
「あ、ごめん、ちょっとトイレに」
少女はそう言って、席を立つ。
「おう」
真由はそそくさと部室に出ていった。
そして、部室にはただ一人取り残されることになる。
この部室は他一般教室とは模様が全然違う。初見で見たとき、よく驚かなかったものだ。例えるとすると、そうだな……ファンタジーゲームで出てくる魔女の家みたいなイメージだ。
よくある謎のドロドロ液体があるでかいツボ。魔導書のような本。雰囲気作りは目を見張るものだ。演劇部の小道具班とかになれば、結構重宝されそうなものだが。
ふと、本棚にある書物が目についた。中にはどのようなものが書いてあるのだろう。
史書くらいの大きさがある本を開いてみた。そこには……。
「これ……なんて書いてあるんだ?」
そこには、謎の文字が羅列されていた。
ところどころに魔法陣のようなものが描かれている。魔導書のつもりで書いたのであろうか。
しかし、これが1000ページほども書かれているのは流石に狂気さえも感じる。この文字は読める文字なのだろうか。それとも適当に変な形を並べただけなのだろうか。しかし、何か規則性があるようにも見える。それにしても、この模様共、教室札に書いてあったヤツだな。
「あのーそれ失敗記録だけど」
トイレから帰ってきたのであろう真由がいきなり後ろから話しかけてきた。
「失敗記録?」
「うん、時空間移動魔法の検証記録」
すると、真由は俺からその書物を奪い取って、そこに書いてあるものの解説を始めた。
「えっと、ここに描いてある魔法陣がそのとき描いた魔法陣で、そこで詳細説明してるんだよ。魔法計算式とか。まぁ、そこに書いてあるやつ実行しても、何も起きないけどね」
そりゃ、何も起きないでしょうよ。
俺は他書物を適当に眺めながら、そう思った。
「今はこの魔法陣を作図してるんだよ。ここらへんに迷ってるんだよねー」
模造紙を広げて、魔法陣について解説し始めた。それはまるで好きな分野について語る数学オタクのようだ。どうしよう、魔法陣が関数のグラフに見えてきた。俺は文系なのに。
「これ、どうなるんだ?」
「ん?何が起きるんだろう……多分何も起きないんじゃないかな」
真由はどこからともなく杖を取り出したかと思えば、それを軽―く振った。
「ちょっと、魔力注いでみるね……!」
杖を魔法陣の方に向けた。
すると、杖の先端から紫色の細いオーラが漂ってきた。
それと共に、模造紙に描かれた魔法陣も同じく紫に光る。
「お!魔力反応!何か起きるよ!」
「へ?」
俺たちの身体は眩しい光に包まれた!
*****
「メーン!!」
バシン!!
俺の脳天に衝撃が走る。
超速の面打ち。本来相手の面にあたるはずであったその竹刀は俺の脳天に綺麗にヒットした。
「わわわ!どうして会長がこんなところに⁉」
「大丈夫ですか!」
倒れた俺のもとに剣道部員が寄ってくる。
「うう……なんで俺、いきなり剣道部室なんかに……」
*****
保健室
綺麗な面打ちで頭をかち割られた俺は早急に保健室に連れてこられた。その時、ひょっこり真由も着いてきたようだ。
そして、俺は今保健室のベッドに横になっている。
「どうやら、あの魔法陣、転送魔法の魔法陣になっちゃってたらしい」
「転送魔法って……本当に使ったの?」
冗談かと思ったのに……彼女は本当に魔法を使ったのか……?奇術じゃなくて?
どうしよう、驚くべきことなのに頭の痛みのせいで素直に驚けない。
「ま……魔法、本当に使えるの?」
「うん、基本的な魔法ならこんな感じでサッと出せたりできるよ。よっと」
真由は人差し指を突き立て、その先から小さな火を出現させた。
「おお」
「いやぁ、それにしても、時空間移動魔法は転送魔法の応用でやろうと思って魔法陣を作図してたんだけど、どうもうまくいかなくて、純粋な転送魔法になっちゃってみたい。ほんとに痛い目に合わせてごめん」
真由は深々とその頭を下げた。
ちっこい身体がさらにちっこくなってしまっている。うん可愛い。
「いいよ。でも他生徒に迷惑かけるのはやめてくれよ?対応困るから」
「ん?私は極力ほかの人には迷惑かけないように魔法研究はしてるけど……」
「へ?じゃあ、風紀委員が受け取っている苦情というのは?」
「苦情ってどんな?」
……確かに。苦情ってどんな苦情なんだろう。
早急に本人に訊ねてみよう。しかし、困った。俺は風紀委員長の連絡先を持ち合わせてはいない。そうだ。あいつなら何とかなるかもしれない。
というわけで、俺は七海に電話を掛けた。
『なに?今部活中なんだけど。まぁ休憩だから丁度良かったね』
「なぁ、サボり役人。風紀委員が受け取った魔法研究部に関する苦情の詳細をくれんか?」
七海は「わかった」とだけ言うとすぐに電話を切ってしまった。
そして数分後。七海から一つのPDFが送られる。
そこには俺が頼んでいた情報が分かりやすくまとめられた書類のデータが入っていた。
「えーと、たまに屋外で爆発を発生させるのをやめてほしい。なんか、気持ち悪く、重い空気がどこからか出ていて、たどってみれば、「赤髪」の魔法研究部員がそこにいた等諸々」
「………………」
真由は俺が発した苦情に関する詳細を聞くと、俯いてしまった。
「おい、どうした?」
「あいつううううううううううううううう!!!!!!!!!!!」
真由はいきなり立ち上がり、そう叫んだ。
「ちょっと、その例の苦情の元凶を今からぶっ殺しにいく!ああ、あとこれ!」
彼女は保健室の卓上にとある一枚の紙をバァン!と置いた。
「よろしくね!じゃ!」
すると、真由は颯爽と保健室から姿を消した。
「……なんでもいいが、殺すなよぉ?」
俺は届きもしない声をただ発した。
それにしても、彼女は一体何を俺によろしくしたのであろうか。
俺は頭を支えながら、ベッドから立ち、卓上に放られた一枚の紙を確認する。
そこにあった紙とは何でもない。ただの「入部届」であった。
所属希望部活名の欄には荒々しい字で「魔法研究部」と書かれている。
「………………」
「入部ヨロシク!」といったところであろうか……。
俺は今一度、あのちっこい体をした五月雨真由の姿を思い返してみるか。
……考えてみてもいいな。
大庭高校生徒会長・
こいつはただのロリコンである。
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