魔法使い幼女と現代魔術戦争
端谷 えむてー
プロローグ 旅の終止符
魔王城 本丸 王室前
その禍々しい悪趣味な扉を前に私たち勇者パーティは勇敢に立っていた。
「この扉の向こうに奴が……憎き魔王がいるのか……」
勇者・ロッシュは呟く。
それに騎士・オウエンは「そうだな」と優しく応えた。
僧侶・ミコも「さっさと終わらせて、皆で帰りましょう!」と強気だ。
そんな中、私は特に何も話さずに黙っていた。
「どうした、レマ。浮かない顔して」
「いや、何でもないよ!」
私は慌ててロッシュに答えた。
つい、私はこんな時に明後日の方向を向いて、別のことを考えることがよくある。この癖……旅が終わるまでには直そうと思ったんだけどな。
そして、ロッシュは両開きの扉の二つの取っ手を両手でがしっと握った。
その時、彼はぼそっと言った。
「みんな、一緒に旅をしてくれて、ありがとな」
鼻をすする音が混じった言葉であった。
「何、死亡フラグ的な発言してんだよ」
「そんなフラグ立てるんなら、魔王に吹っ飛ばされても、お前に治癒魔法かけんぞ?」
「このまま、ロッシュだけ置いて、ここから出ていこうか」
「お前ら、ホント薄情だな~」
基本こんな軽い雰囲気の勇者パーティだ。
魔王戦直前というこんな緊張の時間でも、私たちはいつものようにこんな冗談を言いながら、笑いあっている。
こんなのが、本当に勇者パーティなんだろうか。
「てか、魔王を倒した程度じゃ、私たちの旅は終わんないでしょ?」
突如、そんなことを呟くミコ。
その言葉にほか三人は一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした後に優しい微笑みの顔へ変化させた。
「ああ、そうだな」
そして、勇者によって、魔王への一枚扉がゆっくりと開けられた。
*****
巨体な魔王が私たちを待ち構えていた!!
身長は15メートルくらいあるだろうか……。デカイ!
魔王戦は我々勇者が超優性に戦いが進んだ。
ロッシュ、オウエンが前衛として主力を担い、魔王の巨体にひたすら斬撃を浴びせ、魔王からの物理、魔法攻撃も引き付ける。
ミコは援護全般。治癒魔法、援護魔法で戦いを優位に進める。
そして、私は長年磨き上げた強烈な攻撃魔法で魔王にとっておきの一撃を食らわせた。
いつも、ずっとしていた戦術をこの魔王戦でも変わらず使った。
そして、それによって、魔王は成す術なく、攻撃を食らうばかりであった。
魔王がどんどん弱っていき、足もふらつき始めたころ……
「ロッシュ!今だ!」
「ああ、分かってる!」
その隙を見逃さなかった前衛二人は反応し、そして、ロッシュは高く跳びあがった!
苦労して入手した伝説の聖剣・エクスカリバーを振りかざし……
「ストレートスラッシュ!!」
野太い一本の斬撃線を描いた。
*****
「いやぁ……やったな!」
とうとう、私たちは長年人々を苦しめてきたあの魔王を倒したのだ。この感動は何物にも計り知れない。
「これで、やっと終わったんだね」
「ああ、世界に平和が訪れたんだ……!」
とにかく、私たちは平和な世界が訪れたことを喜び、その喜びをただただ分かち合っていた。
「さぁ、帰ろう!そしてみんなに報告だ!」
「その後はどうする?」
「そうだな……みんなで温泉でも行っちゃう?」
「せっかくだから混浴があるところだな!」
他愛もない話をしていた。
そんなとき……
私たちの影にあった魔王の死骸と思われるもの。
そこにはまだ魔王の魂が残っていたのだ。
「くく……楽しそうに話しおって……誰かひとり、我と同じ運命をたどってもらおう……か」
古い教典にはこんなことが記されていた。
『魔王の魂、魔王の命失われると同時に別の世界に送られる。その時、記憶を失うかどうかは不明。稀に世界の逆転をすることもあり』
そして、私はふと、今回のこの魔王は「自分と運命を共にさせることができる呪い」なる意味の分からない呪いを持っているという噂を聞いたことがあった。
───強い呪力!
それを瞬時に感じた私は魔王の指から、禍々しい呪いが放たれているのを目の当たりにした。
照準はロッシュに向いている。撃ち落とすにはもう間に合わない。
どうする!どうする私!
意識はしていなかった。
体が勝手に動いていた。
ロッシュに向けされたその呪いを遮る形で。
結果、その呪いは私に直撃した。
「貴様……!」
「やっぱり、この呪い使ったな!運命ともにしてやるよ!!!」
私、強気だ。
これ以上にないほど強気だ。
魔王はそんな私にこれ以上にないほど悔しそうな顔をしている。いい気味だ。最後の足掻きを邪魔されたわけだからな!
「くそう……!くそおおおおおおおお!」
魔王の嘆きの声が私の脳内に響く。
そして、私は高らかに笑う……!奇妙な光景だ!
「わははははははは!わはははは!」
ちっともうれしくなんかないのに……
なんで、こんなに笑いが止まらないんだろう……。
「ああ、もっとみんなとぼうけんしたかったな。」
そして、魔王とレマがこの場から消えた。
「レ……レマ?」
一瞬のうちに自分の仲間の魔法使いが消えてしまった。そんな現場を目の当たりにした残った勇者一行はただ立ちすくむしかなかった。
*****
兵庫県 姫路市 砥峰高原
星空が輝くこの土地に二人の奇怪な異世界人が降り立った。
「ぐふっ!」
「げふっ!」
ススキまみれの高原に放り出された二人は周りを見渡してみる。
「どこここ……高原地帯?」
この付近に魔物等はひとまずいなさそうだ。
周りにはたくさんのススキ。そして、空には数多なる星が輝いている。奥には山々が見える。そして、空気の薄さからして、ここの高度は結構高いらしい。
それにしても……
「ねぇ、魔王。あんた、なんか随分見た目変わってない?」
「そうなのか?邪魔者。確かに、背丈がお前と同じくらいになっている」
魔王は私たちと戦った禍々しい巨体からは打って変わって、かわいらしい赤髪の女の子となっていた。背丈は私と同じくらい。ちなみに私の背丈はロッシュたちから「小さすぎ(笑)」と揶揄されるくらいにチビだ。
「それにしても、ここはどのような世界なのか……とりあえず、いろいろ見ていく必要がありそうだな。おい、邪魔者。お前飛行魔法は使えるか?」
「使えるけど……その邪魔者っていうのやめてくれない?」
「邪魔者は邪魔者なんだからしょうがないだろう。元々ここには勇者を連れてくるつもりだったんだから。それで、あいつの力でちょっと新生活を助けてもらおうかなと」
新生活サポートのためにロッシュを利用しようとしていたのか。
「とりあえず、行くぞ」
魔王はそう言うと、飛行魔法によって自らの身体を軽々と浮かばせた。やはりコイツ、凄い魔法の実力者だ。たかが飛行魔法でもこれだけ使い慣れている魔法使いは見たことがない。
「おい、邪魔者。さっさとしろ」
魔王に急かされると、私は「ああ、うん」と相槌を打ちながら、自分の身体にも飛行魔法をかけた。
*****
私はふと魔王に訊いてみた。
「面倒だった勇者パーティの私を殺そうとか思わないの?」
「折角連れてきた同郷には生きてもらったほうが精神的に助かる。お前はどうなんだ。一緒に行動しているのはお前たち人間が憎んでいた魔王だぞ」
「私も同意見だよ。殺さない」
そんな利害一位で二人は不殺宣言を空中で済ますのであった。
そして、しばらく二人は空を飛んでいると、何やら栄えている街の方まで出た。
これは王都か何かか?いや、それにしても……
「なんだ……?ここ……」
光り輝いている町。謎の鉄の塊。大勢の人が奇妙な光る板を眺めている。
私たちにとってすべてが意味不可解なものであった。
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