第三十一章:太陽は堕ちて

「リアちゃんっ……もう、いい加減にしてっ!!」


月乃の声が、怒りで震えていた。


ふだんは冷静で、誰より優しい彼女が。

限界を超えたその心が、リアに向かって突き進む。


「月乃、やめ──!」


俺が止める間もなく、月乃はリアの胸倉を掴もうとした。


そのとき──


キイイィィイ──ッ!!!


車の急ブレーキ音が鳴り響いた。


振り返った月乃の背後、猛スピードの車が──迫っていた。


「危ない!!」


反射的だった。

体が勝手に動いていた。


俺は月乃を突き飛ばし、そのまま──


ドンッ!!!!!!!


世界が反転するような衝撃。

地面がぐにゃりと歪んで、視界がぶつ切りにノイズを刻む。


誰かが叫んでいる。

泣き叫んでいる。

でも、それが誰なのかもう分からなかった。


最後に見えたのは──

泣き崩れる月乃と、何かをぶつぶつ呟くリアの姿だった。



~~~


同日・夜。


病院。集中治療室。


モニターの音が、ピッ……ピッ……と虚しく響いていた。


医師たちの手が、忙しなく動いている。


心臓マッサージ。薬剤投与。呼びかけ。


でも──



「……心肺停止です。これ以上は……」


室内が、静かになった。


ひとりの医師が、無線で外に伝える。


「……死亡確認。20時ちょうど」



~~~



「うそ……嘘でしょ……?」


月乃は、立っていられなかった。


何度も何度も、彼の名前を呼び続ける。

何度も、自分を責め続ける。


「私が……私が、リアちゃんなんかに……っ!!」


隣の席では、警察官がゆっくりと話している。


「……彼の言っていたことは、すべて記録に残っています。

LINEも、監視カメラの証拠も……あとは、我々に任せてください」


でも、そんな言葉はもう耳に届かない。


月乃の中にあるのは──

彼の温もりを、最後に抱きしめられなかった、その後悔だけだった。

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