第二十九章:決別

朝と呼ぶにはまだ肌寒い時間。

駅前の交差点に立った俺と月乃は、静かに歩を進めていた。


向かう先は、警察署。

目の前の大きな建物が、いつもよりずっと頼もしく見える。


俺の手は汗ばんでいて、月乃の指先も少し震えていた。


「……大丈夫。私たち、ちゃんと伝えればいいんだよ」


「……ああ」



~~~


受付を済ませると、すぐに奥の相談室に案内された。

若い警察官と、年配の係の人が出てくる。


「それで……今日はどういったことで?」


最初の一言で、喉が詰まりそうになった。

でも──月乃が先に口を開く。


「……家に、監視カメラが仕掛けられてたんです。私じゃなくて、彼の家に」


「それと……つい昨日の夜、窓ガラスが割られました。これが写真です」


警察の人たちの顔色が変わる。


俺も続けた。


「それだけじゃないんです。……相手からのLINEでのやり取りがあります。俺が誰と一緒にいるかとか、家での独り言に反応してきたり……」


そう言って、スマホを取り出してリアからのメッセージをいくつか見せた。


そこには──


📱「あっ、さっきの独り言、面白かったですっ。聞いてますからね」

📱「〇〇先輩、いつも見てますから。じーっ……」

📱「えへへ、最近の盗聴器ってお利口さんなんですよ?」




など、確実に盗聴・監視を連想させる内容が、ずらりと並んでいた。


年配の警察官が眉を寄せた。


「……これは、正直に言ってかなり悪質です。

おふたりとも、よくここに来てくれました」


その言葉で、胸の奥がほんの少し軽くなった。



~~~


相談が終わったあと、外に出た俺たちは警察署の前で顔を見合わせた。


月乃が、ふっと笑う。


「やっと、ちゃんと誰かに話せたね」


「……ああ。俺、ずっとビビってたのかもな。月乃にまで怖い思いさせたくなくて……」


「でもさ、何も言わずにいるほうが、きっともっと怖いことだったよ」


夏の風が吹く。

だけどまだ、ほんの少し冷たい。


それでも、月乃の手は俺の手をぎゅっと握ってくれていた。

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