第二十八章:夜に響くは、イカロスの叫び

月乃の部屋。

ベッドの上で、俺は座ったまま深いため息をついた。


「……やっと話せたな」


向かいの椅子で、月乃がうなずく。

その表情は穏やかで、でも少しだけ心配げだった。


「明日……ちゃんと警察に話そうね。私、ついていくから」


「……ああ。ありがとう」


その時だった。


──ガシャァアアアアン!!!


けたたましい音が、家中に響き渡った。


「……っ!」


俺と月乃は、ほぼ同時に顔を上げた。


窓の外。

リビング側の方向からだ。


「……なに、今の音……?」


月乃の声がわずかに震えている。


俺は立ち上がって、廊下へ出る。

そのままリビングへ向かい、灯りをつけた。


床に──

散らばるガラスの破片。


そして、砕けた窓枠。

その外には、誰の姿もなかった。


「……!」


後ろからやってきた月乃が、小さく息を呑んだ。


「嘘……」


俺は、窓枠のあたりに目をこらす。

庭の植木。芝生。……足跡。


誰の仕業かなんて──わからない。

証拠もない。姿も見てない。


でも、


わかる。


「……リア、か」


口に出した瞬間、心がざわついた。


「でも……どうして?」


月乃が震えた声で問いかける。


「……きっと、俺が来たから。あいつの“計画”が狂ったんだ」


沈黙


でも、その沈黙の中で。

月乃の手が、そっと俺の袖をつかんでくる。


「……明日、やっぱりちゃんと相談しよう。絶対に」


「うん」


俺は、月乃の手を握り返した。


けれど──

窓の外の闇は、沈黙したまま。


どこかで見ている気配。

聞かれているようなざわつき。


ふと、背筋に冷たいものが走る。


まるで、誰かの笑い声が聞こえたような──そんな気がした。

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