第二十三章:地上のイカロス、陰る月

【リア視点】


部屋のモニターには、彼の部屋が映っていた。

その目を眺めながら、リアは一人静かに目を閉じる。


思い出すのは、空っぽの日々。

手を伸ばしても、もう二度と届かないと思った。


でも。


運命は、私にもう一度チャンスをくれた。


あの人が帰ってきた。

しかも、“誰かのものになる前に”。


そう思っていた。


けど──


「……月乃、先輩……」


彼女がいた。


太陽の隣に立っていた。

あの人の視界に、私の代わりに映っていた。


(なら、私は……)


モニターを見つめながら、リアは笑った。


「私は、イカロスでいい。

焼かれて、壊れて、落ちたって構わない」


「でも、せめて──」


「月に、皆既日食を見せてやるの」


白くて細い指が、USBをカチッと鳴らす。


「私の太陽は、私のもの」



~~~



【月乃視点】


帰り道。

スマホを握りながら、月乃は立ち止まる。


(何か、おかしい)


リアが言った言葉、仕草、表情──

あのどれもが、“自然”じゃなかった。


(彼とリアちゃんが一緒にいた、って話……)


(私が知らないことを知りすぎてる。何を見てるの?どうやって知ってるの?)


胸がざわつく。

信じたくない。でも。


(もし、もしもあの子が……)


月乃は目を閉じて、深呼吸する。


そして、スマホのホーム画面にある写真フォルダを開いた。

彼と写った、思い出の一枚。

まだ、何も壊れていなかった頃の二人。


(……まだ、間に合う)


そう思えた。

そう思いたかった。

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