第一章:太陽に焦がれた少女
俺がリアと出会ったのは、幼稚園の年長の時だった。
最初は、ただのクラスメイトってだけで、特別な感情もなかった。
リアは、髪が真っ白で、肌がやけに白かった。
子ども心に「変わった子だな」と思ったけど、それだけだった。
でも、いつの間にか、彼女は浮いていた。
周りの子たちにからかわれて、絵本を隠されたり、上履きを隠されたり。
教師は見て見ぬふり。どうせ「子ども同士の小さなトラブル」としか思ってなかったんだと思う。
俺は最初、関わらないようにしてた。
下手に手を出せば、次は自分が標的にされる。そう思ってた。
けどある日、昼休みに砂場で遊んでたら、リアが泣いてるのが見えた。
スコップで頭を叩かれて、服も砂まみれで、泣きながら小さくうずくまってた。
俺は、それを見て動いた。
気づいたら走ってて、そのまま相手のスコップを奪って、リアの前に立ってた。
「やめろよ。痛いだろ」
そう言った瞬間、相手の子たちはこっちを見て、あっけにとられてた。
俺はそのままリアの手を引っ張って、教室に戻った。
リアは、ずっと黙ってた。泣き止んでも、俺の方を見ようとしなかった。
「……痛かった?」
聞くと、リアは小さく首を振った。
「じゃあ、怖かった?」
また首を振った。
「じゃあ、なんで泣いたの?」
しばらく間があって、ぽつりと。
「こわかったから……」
「なら、俺がお前のこと、守ってやるよ」
その声は、すごく小さくて、震えていたけど、ちゃんと聞こえた。
俺はそのまま、リアの隣に座った。
特に何をするでもなく、ただ一緒にいた。
そのあとだった。
園でアイスが配られるイベントがあって、みんなで中庭に集まった日があった。
リアはソーダ味のアイスを選んで、嬉しそうにしてた。
でも、しばらくしたら顔をしかめて、「あたま……キーンってする……」って眉をひそめてた。
あの時の顔が、不思議と、ずっと記憶に残ってる。
〜〜〜
その日から、リアは俺の後ろをついてくるようになった。
どこに行くにも、何をするにも、一緒。
年下でクラスが一つ違ったのにも関わらず。
最初はちょっとめんどくさいと思ったけど、だんだん当たり前になっていった。
周りの子も、俺が間に入ってるからか、リアに手を出さなくなった。
リアも、少しずつ笑うようになった。
お絵かきの時間、リアは俺の似顔絵を描いてた。
「似てる?」って聞くと、「全然」って言ったけど、嬉しそうだった。
俺が水筒を忘れた日、リアが自分のを半分くれた。
「いいの?」って聞いたら、「別にいらないから」って顔を赤くしてた。
正直、リアのことが、ちょっと可愛いって思うようになってた。
〜〜〜
でも、その時間は長くは続かなかった。
親の仕事の都合で、引っ越すことが決まった。
あと2週間で、別の県に行くことになった。
そのことをリアに言ったのは、園庭のすみっこだった。
夕方、みんな帰ったあと、俺とリアだけが残ってて、ブランコに座ってた。
「引っ越すことになった」
そう言うと、リアは何も言わなかった。
顔はこっちを向いてたけど、表情は変わらなかった。
でも、目だけが、じっと俺を見てた。
「……いつ?」
「あと二週間くらい」
沈黙が流れた。
風が吹いて、リアの白い髪が揺れた。
「……そっか」
それだけ言って、リアはブランコを降りた。
そして俺の隣に立って、小さく言った。
「じゃあ、最後の日まで、一緒にいてほしい……」
俺はうなずいた。
〜〜〜
それからの2週間、リアは一日も俺のそばを離れなかった。
俺も、できるだけ一緒にいた。
園の自由時間も、リアはずっと俺の隣にいた。
砂場やお絵かきの時間もあったけど、いちばん多かったのは、本を読む時間だった。
図書コーナーの隅っこ、俺たちはよく一緒に絵本を読んでいた。
なかでも、『シンデレラ』のページをめくったときだけ、明らかに目を輝かせていたのを、今でも覚えている。
ガラスの靴を抱えてお城に現れる王子様。
舞踏会、魔法のドレス、十二時の鐘。
あの時の彼女が何を思っていたのか、その時は分からなかったけど──
引っ越しの日、リアは来なかった。
お別れの手紙も、プレゼントも、何もなかった。
ただ、引っ越しの朝、ポストに折り紙の手紙が入ってた。
中には、たったひと言だけ書いてあった。
「ありがとう」
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