イカロスはソーラーエクリプスに想いを馳せて

狂う!

第零章:イカロスは太陽に何を見たか

イカロスの話は、きっと誰もが一度は耳にしたことがある。

蝋で固めた翼を背に、空へと飛び立った少年。

太陽に近づきすぎて、羽根は溶けて、やがて墜ちていった。


物語としては単純だ。

「欲望に駆られた者は、必ず墜落する」

そんな戒めの寓話として語られることが多い。


けれど──もし、彼にとって太陽が「ただの空の光」ではなかったとしたら?

「触れたい」と願わずにいられなかった、唯一の光だったとしたら?


彼は愚かだったのか。

それとも、真実を生きたのか。

それとも……


地上から見上げる誰もが、口を揃えて言う。

「飛びすぎた」「欲張った」「破滅を選んだ」と。


だが、空を翔けた彼自身だけが知っている。

「太陽を見つめられる瞬間の幸福」を。


落ちることを、最初から恐れてなどいなかった。

羽根が燃え尽きると分かっていても、彼は翼を広げた。


イカロスとは、愚かさの象徴ではなく。

愛と執着に焼かれてもなお、飛ばずにいられなかった存在。


その軌跡を見上げる者たちには、ただの悲劇にしか映らない。

けれど彼にとっては、焼かれることすら「選んだ証」だった。


だからこそ、誰も止められない。

墜ちていくその背に、その瞳に──

確かに、太陽の光は宿っていたのだから。

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