第20話 蒼の惑星
海賊船オルカにもこちらへ向かってくる連邦警察の巡視船やバレーナの船からの通信が来る。
「わあ、見てください!かわいいですよ!」
「ティルさん?何を見て……」
どうやらバレーナからの映像のようだ。
聞き覚えのある鳴き声と共に、巨大な鯨の姿が見える。
「え……っ、鯨が並走してる?それとも案内してくれてるのかな」
「どちらもですかねえ。むしろバレーナは鯨ですからね。仲間と並走するのは楽しいんですよー」
「仲間認識なんですか?」
バレーナが鯨と呼ばれるのは船体も鯨っぽいからでもあるが。
「オルカもそうでしょう?」
「あ……それは確かに」
リーノを見て微笑む。
「……お前たちの宇宙船の名付けはそう言うものなのか?」
「船にもよるけど、星海の宇宙生物に因んで名付ける船も多いかな。憧れだったりカッコよかったり、好きだったり」
「ティエラもか?」
「もちろん好きだよ。名付けたのは父さんだけど……俺もリーノとこのオルカで育ったからさ」
「そ……そうか」
リーノが頬を赤らめながら視線を外す。うん……?照れてる?
「青春っていいですねー」
「ぶほっ、せ……青春って」
「世代的にはそうでしょう?」
いや……俺もリーノも18歳だけど。宇宙ではなく惑星で暮らしていたらそうなのだろうか。そうしてら、学校に暮らしたり家と言う住宅に住んでいたり。
「宇宙でも……ですか?」
今さら陸で暮らすだなんて……想像もつかないが。
「当然ですよ。青春は全宇宙共通ですからね~~」
俺は宇宙で生きて、海賊船の船長になって……だからそんなこと考えたこともなかった。
何だか俺も照れたように視線を外せばリーノの穏やかな笑みが届く。
「ふふっ。ティエラはかわいいな」
「り、リーノったらいきなりやめろよっ!」
全くもう……っ。
「とにかく、バレーナたちを出迎えないと」
蒼さを取り戻した惑星に二隻の船が着水する。この海ならばもう水面に浮かべても申し分ない。
そして連邦警察の巡視船から降りてきたのは警察官たちだけではなかった。
「おーい、ユハニ!」
ユハニさんの名前を呼ぶ彼らの耳は短く尖っている。
「みんな……!無事で!」
再会を喜び合うのは北極基地のメンバーたちなのだろう。そしてみんなこちらの言葉をしゃべり、避難していた民とも言葉を交わす。
「どうやら知り合いもいたようです。ほとんどの民が散り散りになったのに……奇跡ですね」
ラウリさんが微笑む。
「ラウリさんの知り合いはいたの?」
「さて……どうだか。私の故郷は北極基地と遠く離れていますから」
助かった可能性は……低い?
「でももしかしたら全部じゃないかもしれない」
北極基地のように残っているロストテクノロジーがある可能性だってある。
「……それでも、今さら戻れません」
「だけどここはラウリさんの故郷だろ?」
「……」
「少なくともここの人たちはそう思っている」
「それは……」
ユハニさんがラウリさんを呼ぶ。北極基地の人たちに紹介しているようだ。
「ああ……聞いたことがある。マーレリオスじゃなくて宇宙に残ったエルフの話だ。もう……曾祖父さんの時代だが」
「……っ」
どうやらあちらにはラウリさんを知るエルフの子孫がいたようだ。
「こうしてこの惑星で出会えたのも奇跡だな」
そう言ってニカリと笑う。
「また、遊びに来てくださいね。ラウリさん」
「……いいのでしょうか、ユハニ」
「もちろんですよ。だってもう友だちでしょう?」
「ユハニ」
「もちろんこの先も、俺たちが見守れない時代も……どうかこの惑星の未来を見に来てよ」
「……そう言われたら、来ないわけにはいかないじゃないですか」
ラウリさんも帰りたかったんだな。スクアーロとして星海を渡り歩きながらも……。
再生した海や森と共に、復興の道を歩む奇跡の蒼い惑星。
惑星の民・エルフたちや北極基地のみんな、ユハニさんたちや商売や駐在のために残る彼らに手を振りながら。海賊船オルカは任務を終えて宇宙に帰還する。
今はもう隔絶されることはなく、宇宙社会に見守られながら浄化の1000年を歩んでいく。
星海では俺たちを見守るように鯨や小判鮫の群れが並走してくれる。鯨が口を開ければあの時のウオノエもひょっこり顔を出してくれた。
「リーノ。惑星マーレリオスは……テンペスタ星域はどうなっていくだろうか」
「うーん……そうだな。暫くは復興と、ティルさんの言っていた技術の提携事業……だが。ゆくゆくは観光産業もできるんじゃないかな」
惑星の民は外から来た人々にも親切だった。ヴァルロスがとんでもないことをしでかしたのに。それでもユハニさんは惑星を救おうとしたし北極基地の人たちが残した物資や基地に救われたからだろうか。
「また、来ような。リーノ」
「ああ、ティエラ。それもいい」
マーレリオスに関わる任務があれば受注してもらうようザックに頼もうか?ミーナも惑星の子どもたちと随分仲良くなったようだしな。俺もまたユハニさんたちに会いたい。
それに俺も、あの惑星の未来が見たいから。
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