第19話 北極基地の秘密



――――遠い昔、まだ宇宙が何もなかった頃。人間は青き惑星から宇宙を見上げていたのだと言う。


「青き惑星もこんな感じだったのかな?リーノ」

海からは木々が生え、海上に木の根の筏を形作る。

「どうだろう?陸地はあるって聞いたけど」

そう言えば……ほとんどの人間は陸地に住み国で分かれていた……とか聞いたことがある。


「この北極基地みたいな……?」

「そうだな。天然のものも人工のものもあったろうが……ここは」

「……やっぱりロストテクノロジーだよなあ」


「気付きましたか」

「今基地の装備を見せてもらったけど、見事なものだわ」

ユハニさんがミレイユさんとやって来るのが見える。今は凶星が消え朝が来て、皆元に戻りつつある惑星で営みを始めている。2人はやはり研究者の血が騒ぐらしい。


「それにしても、有毒酸にも強いってどう言うことかしら?」

「もしかしたら空の凶星と同じ素材かもしれませんね。海に沈まない限りはひとが住める。見捨てられながらも旅立つ誰かが残したのか、残った民が造ったのか……長生きのエルフでも知らないようです」

それほど古いものだったってことか。


「確かに……通じる部分があるわね」

「通じる部分?」

「ええ。この惑星に残すしかなかった人々のために……って考えたら凶星がひとつ故障したら他も機能を停止する……その理由が分かるわ」


「そうか。普通はひとつ故障しても他の3つで維持できるように作るかも……」

「ひとつだけでも故障すれば、壊せば磁気嵐が消える。だから……見つけて欲しかったのよ。そして、生き延びて欲しかった」


「なら今度は隠さずに、同じことが起きないように宇宙社会で見守るべきですね」

「ええ、ティエラくん」

この先1000年、本当の浄化が終わるまで。いや……その先も。


「これから連邦警察の巡視船も来てくれるんだよな。あと、バレーナも」

「もちろんですよー!」

しれっと現れたのはティルさんだ。


「この惑星にはとても多くの魅力があります。商売もできそうですし」

いないと思ったらいつの間にこの人は。

珍しい魚や鉱物とか。現地の民にも色んなものを見せてもらったようだ。


「うーむ……鉱物や水棲の木々ももちろんですが、これらはまずは復興に使うべきですね」

そうだよな。今もまだ大人たちは船団の基礎を組み立てている。うちの力自慢のクルーたちも言葉が通じないながらも手伝っているようだ。


「暫くは支援のための支給品を届けるのも星海を行き来する宇宙商人の役目。困っている時はお互い様ですよ。けれど……」

「ティルさん?」

「商人は時に客の足元を見るものですが、足元だけを見て客を軽んじてはいけません」

まあそりゃぁ……。


「ですから、この惑星が我々と対等に取引できる商売が必要なんですよ」

「あー……それは何となく分かるなあ」

やって来たのはラナ姉だ。


「状況は違うけどさ。私はスラム街育ちの孤児だから。私たちの足元見てさ、パンを差し出してくる金持ちってたまにいるんだよ」

ラナ姉はどこか昔を懐かしむように、しかし悲しそうだ。


「生きるためには食うしかない。けどさ……どうしても惨めな気分になるんだよ。それならいっそ労働してパンをもらう方がマシ」

そう吐き捨てため息を漏らす。

「ま、子どもにできることなんてほとんどないし、地元のワルに入って悪さするくらいしかできないけどね」

「ラナ姉……」


「でもま、今は違うだろ?海賊船の看護クルーとして働いた分の給料をもらってる。そんな今が一番生きてるって思えるんだ」

「ふふっ。ギャング王に睨まれるよりはよっぽどですね」

「ギクッ、ちょ、ティルさん何で知ってんの!」

ラナ姉が慌てふためく。

もちろん今は睨まれていない……と言うか覚えていなさそうだが。


「そんなわけで……色々と探していたわけですが」

「何を見付けたんですか?」


「技術ですよ。この惑星の造船技術は飛び抜けたものがあります。宇宙から技術者を招きその技術を教えることで復興の手助けにもなります。復興が進めば宇宙に向けた輸出品も造れますよ」

「そっか……でも彼らは納得してるの?」

この惑星ならではの技術だろう?


「そこはラウリさんに通訳を協力してもらいましたよ。彼らは自分たちの技術が役に立つのならと賛成してくれてます」

「そうか……でも外から人を招くのは大丈夫かな?」

「ユハニさんがここに残るでしょうし、バカをやるやからがいればスクアーロのラウリさん宛てに通報がいきます」

「……惑星破壊とかやめろよ?せっかく回復したのに」


「心配しなくても宇宙でやるよ」

やりはするんですか?いつの間にかルカンさんとラウリさんがやって来たようだ。


「ぎゃーっすっ!」

ラナ姉がしれっと俺の後ろに隠れたが、ルカンさんは気にも留めてないようだ。


そして木々の浮き船の上で遊んでいるミーナたちのところへダッシュで駆けていく。

とは言え……。


「でもルカンさん、鯨に迷惑が……」

「星海の外でやるさ。あの大きさの鯨は珍しい……。この星海で騒いで嫌われたらショックだし」

そういやこのひと、宇宙生物マニアだったな。


「ラウリさんはこれからもスクアーロとして生きるんですか?」

せっかく母星に戻ったと言うのに。


「私がこの惑星からヴァルロスに連れ出されたのは私の意思でもあります」

「え……?」

「この惑星からモルモットで連れ出されることになった時、私が相応しいと思いました。私はいわゆる変わり者……不良のようなものでしたから」

その……今の調子じゃあ全く想像できないんだけど。


「ある時お役御免だと告げられヴァルロスを降りましたが、その研究員の耳は尖っていた。彼は私の願いを聞き受けてくれたんです。そして宇宙を巡るうちに無事に天職にも出会えましたし」

だから役目を終えた彼を同郷の研究員はラウリさんを母星に送り届けなかった。


「けど……天職?」

「ドンパチは大好物ですし、破壊衝動でノリノリのうちのボスってそそるでしょう?」

そう楽しそうに語るラウリさんは……確実にスクアーロが合っていると感じた。


「おや……分かってるじゃないか。次はどこで暴れようか」

「いや……そう言う会話は帰ってからやって下さい」

相変わらず物騒なんだから。


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