第2章 ⑱
さやかは、ふっ、と優しげなため息を一つ吐いてエマの顔を見つめた。
「ウィンターズさんは、どうなのかな? 篠塚くんと同意見って事でいいの?」
「…………すいません、誉先輩」
「うううん、気にしないで。あなたには、あなたの意見がある筈だから。園田大尉……。どんな人だったんだろう……。亡くなってからも、あなた達にここまでさせる人って」
そんな、ぽつりと呟かれたさやかの言葉に、エマの瞳がみるみるうちに曇り、その頬を涙が伝い始めた。
「本当に……本当に優しい、暖かい人でした。上官というよりも先生みたいで。いつも私達の傍にいてくれて、誰にでも分け隔てなく接してくれて……。今でも、夢に見るんです。大尉と一緒にいた頃の事を。それで、朝になって目が覚めてからいつも愕然とするんです。大尉は、もういないんだって……」
テーブルの上にぽたぽたと滴が落ちた。
夏彦がすかさずハンカチをエマに渡そうとズボンのポケットに手を伸ばす。が、誰かがそれより先にテーブルの縁でギュッと固く握られたエマの手にハンカチを握らせた。
(すまん、多賀城)
夏彦の無言の礼にほのかも無言で頷いて見せる。
真っ赤になった彼女の瞳にも、うっすらと涙が浮かんでいた。
ほのかは、指で目尻を拭い隣のさくらにも小声で呼び掛けた。さくらは、下を向き制服のキュロットスカートをきつく握り締めている。
「さくら、大丈夫か?」
ほのかにつられてさくらに視線を向けた夏彦は、息を呑んだ。
さくらは、顔に掛かった前髪のせいで表情こそ窺えないが、僅かに見える彼女の頬には涙が付けた足跡がはっきりと残っていた。
無言で見つめる夏彦の目の前で、その上を新たな涙が一筋滑り落ちて行く。
ほのかが、脇からそっと彼女の手を握り――別の手がその涙をハンカチでそっと拭った。
「園田大尉は、あなたにとっても大切な人だったのね」
「誉隊長……」
「誉先輩……」
さやかは、ハンカチをそっと制服のポケットにしまうと悲しげに微笑んだ。
「はあぁ。困ったな……」
「すいません。でも、俺達は、この事に関して一切妥協はできません」
「それは、戦うってこと?」
「必要とあれば」
短く言い切った夏彦の言葉に小首を傾げて苦笑しつつ、さやかは、ほのかに視線を向けた。
「多賀城さん。あなたはどうする? もし、この一件にこれ以上関わらないって言ってくれるのなら、あなたは、この場に居なかった事にするわ。あなたは、さくらちゃんが、戦略生体兵器だっていう事を今初めて知ったみたいだし」
「…………」
ほのかは、唇を噛んで俯いた。
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