第1章 ⑫


 輝くような銀色の髪を短く刈り上げ、白いタンクトップと灰色の作業ズボン姿の引き締まった体躯を「国府田こうのだ組」と名前の入った藍色の印半纏で包んだその少年は、鋭さを増す夏彦の視線に対して、人懐っこい笑みを浮かべながら両の手を振ってみせた。


「おいおい、おいらは、おまえさんの敵じゃねぇよ。おまえさん、あの襲われてる方のお人だろう? 確か、おまえさんのその制服はあの民間軍事会社PSCの中央軍事学院のものとおいらは睨んだんだが……どうだぇ?」


「ああ、その通りだ。で、あんたは何者だ? あまりおしゃべりしてる時間は無いぞ」


「釣れないねぇ……。まあ、しゃーねぇか。おいらの名は、国府田アレクセイ。通りすがりのただの除染屋さ」


「俺は、篠塚夏彦。で、その除染屋さんが何の用だ? 俺に協力してくれるとでも?」


「おうよ! そいつだよ! ひと肌もふた肌も脱ぐぜ。おいらも、天下の大道で大立ち回りをやらかす馬鹿にお灸を据えてやろうってぇんで、さっきのおまえさんのようにしてここにやって来たのさ」


 トラックの後方へと向けられたアレクセイの視線の先には、煌煌と輝くヘッドライトの群れがあった。夏彦と同じようにしてここに来たのなら、この少年も只者ではあるまい。


「俺が仕切っていいのか?」


「ああ。おまえさんは、この手の荒事の専門家だろう? 頼りにしてるぜ」


「よし!」


 夏彦は、頷くとアレクセイに身を寄せ前方を指差した。


「俺は、あの中央のバンへ向かう。輸送物資の積まれているあのバンさえ守り抜けば、いくらもしない内に応援が来る。俺が、あそこへ向かうのを援護してもらえるか? その後の事は、あんたに任せる」


「あいよっ! 合点承知の助だぁっ!」


 そう言うなり、少年が大音声で叫ぶ。


極限豪力マキシム・ゴーリキー!」


 その声が止むか止まないかの刹那、傍にあった重さ一トンはあろうかという大型除染機械が襲撃者の車に向って宙を舞い、同時に夏彦が勢いよくバンへ向け荷台から跳び出した。

 飛び交う弾丸、明滅するランプとヘッドライトの光、そして小銃、拳銃の発する炸裂音が夜の闇を切裂く。夏彦は、まだ空中では抜刀せず、とにかくバンへと急ぐ。

 パシフィック・サーバントの護送車列のルーフをいくつか経由して夏彦はなんとか目的のバンのルーフへ到達した。

 件のルーフハッチの中を覘くと例の戦術生体兵器の少女が青くなって震えていた。


「おい」


「はにゅん?」


「もう大丈夫だ。俺は、味方だ」


「ふぁぁぁん、怖かったですぅ! って、あなたは、確か――」


「高等部二学年大隊第一中隊の篠塚夏彦だ。おまえは……」


「高等部一学年大隊第二中隊の多賀城たがじょうほのかです」


「よし、多賀城――」


 夏彦は、彼女の脇をすり抜け車内に入る。

 恐らく、警備員がもう一人、二人いるだろうと見当を付けて車内を見渡すと……


「戦闘は、無理か……」


 ファーストエイドキットに入っている止血帯を左上腕部とその反対側の脇腹に付けた男性警備員が一人、隔壁に寄りかかって低く呻いていた。

 こうなれば、腹を括るしかない。


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