第3話 異世界魔法学院
今日もどこかに現れる、
異世界へ通じる案内所。
異世界を信じる者にしか、
たどり着けない不思議な店。
本日のお客様は、どなたでしょう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
いつからなんだろ。みんなが魔法少女に憧れなくなるのって。
女の子は心の成長が早いから、とか。
大人になったらそんなの幼稚だ、とか。
まわりの大人たちがそう言って早めにやめさせようとして、みんな中学生になる頃には「恥ずかしいからもうやめなよ」とか言い出して。結局、ちゃんとした理由なんてないのに。
現実的でないのは分かってるよ。でもそういうのじゃないじゃん。憧れって、追いかけることに意味があるんじゃん。
私の部屋には魔法少女が溢れてる——。
最近は随分オタクに寛容な社会になった。それでも、「魔法少女になりたい」なんて三十過ぎの私が言ったら、痛いだけって言われるのが目に見えていて。
コスプレ界隈ならもっと寛容かもしれない。けど、私はそこまで容姿に自信がない。なくてもできるのは分かってる。でも、やる勇気もきっかけも、私にはなかった。
だから、部屋の中で誰にも見られないように楽しむほかないんだ。
地味に、目立たないように、今日も淡々と仕事をこなした。
——帰り道、見かけないお店が裏路地に。
異世界コンカフェでもできたのかな。近づくと、どうもそうではないらしく。でも何となく中が気になって、吸い寄せられるように店内へ入った。
「いらっしゃい」
「あっ、魔法使い」
思わず私が声に出すと、老婆はにこっと微笑んだ。まさか本物の魔法使い? なんてそんなはずないけど、そう思うほうが楽しいんだよね。
ここは何の店かと尋ねると——
「異世界案内所でございます」
「へえー、おもしろそう!」
扉を開けたら異世界へワープ、みたいなコンセプトかな。
「こちらがメニューです」
「ほうほう。雰囲気出てるなあ~」
古びた感じの厚っこい紙に、筆で書かれた案内書。結構本格的じゃん。
ぺらぺらとページをめくると、何とも魅力的な見出しが。
「魔法学院に体験入学? いいじゃん、いいじゃん!」
「気に入られましたか?」
私が勢いよく「はい!」と答えると、老婆は淡々と詳細を話し始めた。授業に参加するだけならなんと百円、魔法使用の体験付きなら五百円だという。私は迷わず後者を選んだ。
「では、そちらから中へお進み下さい。魔法学院の校門へと通じております。リーファという者に案内を頼んであります」
盛り上げてくれるなあ、リーファって名前もいい。異世界感ばっちりじゃん。
壁が光ってる。光を抜ければ異世界ってか? 演出も凝ってるなあ。こりゃ当たりだな、さっそく行ってみよう。
——光を抜けたら、そこは異世界だった。マジか。
どうやって浮いているのか分からない数々の物体が、校舎周辺にふわふわと漂っている。校舎の外観は荘厳な教会に似ていて、いかにもな雰囲気。校門の奥には見たことのない、やたらと光沢を放っている花壇がある。
「おはよう、ティリス」
少女が声をかけてきた。いかにも魔法学院の生徒ですっていう制服を着てる。
ところで、ティリスって——私のこと?
「どうしたの? ぼーっとして」
「ごめんリーファ、何でもないよ」
驚いた。自然に名前が口から出た。
それにティリスって、私が昔好きだったゲームのキャラクターの名前じゃん。こんな可愛い魔法少女になれたらなって密かに憧れ続けてた、まさにその人物の。
「一限目、エイダ先生の特別授業だよ。いっしょに行こっ」
「うん」
なんでこんなに自然に会話できるんだ? AIとか何とかで、こんなことまでできちゃう世の中になったとか?
いやいや無理だろ、やっぱり本物の異世界じゃなきゃ。
気になる特別授業は、中級レベルの火魔法の特訓に実技試験という内容だった。リーファはあまり火魔法が得意ではない様子だ。
「風魔法ならいい線いってると思うんだけど。ティリスはいいなあ。何でも得意で、しかもすっごく可愛くて」
「そんなことないよ~。可愛いのはリーファの方でしょ」
何でも得意、というのは異世界体験の特典みたいなもんなんだろうけど、さすがに可愛いってのは無理がある。言われたことがないから反応に困る。
「本気で可愛い子がそんなこと言うの、嫌味に聞こえちゃうんだよ? ほら、ちゃんと見てよティリス!」
リーファは校舎の窓の前まで私を連れてくると、頬をぷくっとふくらませて、そこに映る私を指さした。えっ、これ——私?
毛先がゆったりと波打つ薄いパープルの長い髪、輝くような白い肌に、長いまつげと大きな目。超絶美少女じゃないか。
隣のリーファだって、十分美少女だ。腰まで伸びる明るいブロンズの髪が艶めいて、目鼻立ちもはっきりしていて、どこかあどけなくて。
「どう? 分かった?」
「う、うん。リーファもめっちゃ可愛いよ」
「あ~、分かってない!」
窓に映るふたりの様子が急におかしくなって、そろって噴き出してしまった。美少女ふたりがきゃっきゃうふふする姿なんて、私の理想過ぎて脈拍がヤバい。しかもそのうちのひとりになれるだなんて。——異世界よ、どうもありがとう。
火魔法の特訓が始まった。リーファは確かに苦戦していた。
私はというと——
「わあ、すげえ!」
「なんて綺麗な炎!」
男女問わず黄色い声が上がった。手を上空にかざして簡単に火をイメージしただけなのに、想像以上に大きな火球が出現し、その周りをいくつもの炎の矢が旋回していた。
「さすがはティリスさんね。一本でも難しい炎の矢を、一度にこんなにコントロールして見せるだなんて」
エイダ先生が絶賛する。これも異世界体験の特典だろうけど、さすがに気分がいい。今私は、魔法学院の優等生で美少女という、テンプレ通りの魔法少女。
変身するタイプの魔法少女も好きだけど、このいかにもモテますっていう学園アイドル的設定にとにかく憧れてた。変身するタイプの方は何かと厳しい局面に遭遇しがちだから、個人的にはこっちがどストライクだ。
実技試験は見事一位通過。男子の視線をほしいままにして、颯爽とその場を後にする私。めちゃくちゃカッコイイぜ。
「あの……、ティリスさん」
気弱そうな美少年が声をかけて来た。きたきた、これまた大好物のテンプレ展開。私とお近づきになりたいってか? それなら、素敵な笑顔と上目遣いで言ってやろうではないか。
「なあに? わたしに何か用?」
「あ、えっと。……ランチ、いっしょしてもいいかな、なんて」
ええがな、ええがな。まだ一限目終わったばっかでそれはどうよ、とは思いながらも平静を装って「いいわよ」なんて答えてみる。お約束通り、照れまくって顔を真っ赤にして去っていった。私ったら、我ながら小悪魔だわ。
「モテる女は違うなあ~」
リーファが不満げな顔で私を見る。そんな彼女も、何人かの男子に何度もちら見されている。どの口が言っているのやら。でも、これもお約束だよな。
――その後も私は目立ちまくり。
授業では好返答を繰り返し、先生に褒められまくり。魔法となれば私の独擅場で、みんなからちやほやされまくり。さらにランチは美男美女で優雅にと、何をするにも私が主役。
何もかも都合良すぎだ。
おかげであっと言う間に終業時間。なんか最近嫌なことばかりだったけど、それが何だったかなんて、もうどうでも良くなってる。
「ばいばいティリス。また明日ね」
「うん、リーファ。また明日」
明日なんてあるのかよ、なんて無粋なことは言わないでおこう。何となくだけど、本当にまた明日会える気もするし。
案内所に戻った。老婆はどうやら本物の魔法使いらしい。また行きたいな、異世界。またここに来られたらいいんだけどな。
「またのお越しをお待ちしております」
「まだまだ全然遊び足りなかったですよ。また来たいです……けど、来れますかね?」
老婆はにっこり笑った。
「来れますとも。あなたのような純粋なお心をお持ちの方ならば、近いうち必ず」
私も微笑み返して、店を出た。
生きてりゃこんなこともあるんだな。捨てたもんじゃないじゃんか。
仕事なんて――
またの機会の資金作りに、やってやりゃあいいんだよな。
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