第12話 味が...

☆空見雄太サイド☆


ポップコーンが辛い味しかしない。

コーラも砂糖のジュース。

というかただの砂糖の液体に思える。

オケモンの映画もほぼ集中が出来なかった。

とにかくただただレモネードの味がする。


「...」


映画を観終わってから俺はトイレに行った。

それから手洗いの水で顔を洗った。

先程の通路のあれは夢か?

夢だよな?

まさか奏が俺にキスをしたって事は無いよな?


「...ぐ」


いかん。

兄がこんな事では...笑われる(?)

そう思いながら俺は頬を叩く。


しかしまさか奏は俺が好きなのか?

んな訳あるか。

告白もされてないしな。

兄妹のす、スキンシップだろうとは思うけど。

あくまで度が超えている。


「女の子としての自覚を持ってもらわないと...」


俺はそう言い聞かせながらハンカチで顔を拭いた。

それから意を決してからトイレを出る。

そして目の前に居る奏を見る。

奏はフードを被っている。


「...すまん。眠かったから」

「い、いい」

「...」

「...」


駄目だ話が続かない。

そう考えながら俺はオケモンのオトシのトレーナーの話をする。

伝説のオケモンを捕らえるのに邪魔してきたブースト団の話もする。

だが奏は「ん」とか「だね」としか言わない。

これは参った。

そこで俺は聞いた。


「...奏。さっきの事だけど」

「!」

「...あれは兄妹のスキンシップか?」

「そ、そう」

「...あのな。スキンシップにしては度が超えているぞ。お前というやつは全く。気軽にあんな事はしたら駄目だ」

「(兄妹)の(スキンシップ)だからあくまでにいさんにしかしない」


奏はそう言う。

そう言われて「え」と固まる俺。

それから「そ、そうか。兄妹のスキンシップだもんな」と言う。

なんか腑に落ちない。

しかしこれ以上言っても奏は何も言わないだろう。


「...何か見ていくか?オケモンのグッズとかさ」

「ん」


それから俺は映画館の中にあるグッズ屋に行く。

オケモンの限定グッズが置かれている。

目を輝かせる奏。

そして見本品が飾られているショーケースを見つめる。

俺はそんな奏を見ていると「あれ?空見くん?」と声がした。

顔を上げるとギャルっぽい感じの女子が...あれ?


「佐波か」

「うん。中学校以来だね」

「懐かしいな」

「うんうん」


同級生だった佐波有希(さなみゆき)。

中学時代にクラスメイトだった少女である。

見た感じおめかししているという事は友人と買い物だろうか。

まさか恋人?

まあ...佐波が幸せそうなら良いか。


「ねえねえ。何をしているの?」

「ああ。映画を観て。オケモンのグッズを買いに来ていてな」

「そうなんだ。...その子と?」


そう言われて俺は冷たい風にハッとする。

背後を見てみるとそこに眉を顰めている奏が居た。

「にいさんその女誰」とでも言いたそうな薄ら目の顔をしている。

俺は「お、おい。バレるぞ。お前が男じゃないって」と耳打ちする。

そして俺は咳払いをした。


「こちらは佐波だ。佐波有希という俺の同級生だった少女だ」

「...ふーん」

「宜しくね。その。...えっと」

「えっと。俺の義弟なんだ。空見奏っていう」

「そうなんだ?...あの頃から再婚したんだね。宜しく。奏...くん?」


何故か困惑する佐波。

俺は背後を見る。

フードを脱いで髪の毛をバサッと出した奏。

それから俺の腕に縋る。

お、おい!?


「ごめん、なさい。...この人は私のにいさん、だから」

「えっと...え?」

「こ、これには訳がある」


佐波は考え込む。

それから「...えっと。もしかして義弟さん...じゃないの?」と言う。

この姿には流石に良い訳が出来ない。

そう思いながら「すまん。義妹だ」と言う。


「そっか」


何故か佐波は嬉しそうな顔をする。

俺は訳も分からず佐波を見ていると佐波はこう言った。

「...良かった。君の幼馴染さん以外に...君を見てくれる人が出来て」と。

俺達は訳も分からず顔を見合わせる。


「佐波?どういう意味だ」

「...いや。こっちの事だから。...じゃあね。友達を待たせているから」

「あ、ああ」


そして駆け出して行く佐波。

大きく手を振ってくれた。

俺は「???」となりながら佐波を見送る。

それから俺は顎に手を添えた。



「にいさんのえっち」

「...なんでだよ」

「さな、佐波さんの姿を見すぎ」

「...悪かったって。だからぬいぐるみ買ってやったじゃないか」

「まっ、そ、それは」


腕の中に納まっている劇場限定グッズのカドゴンのぬいぐるみを抱きしめる奏。

俺はその姿に苦笑しながら歩く。

それから歩いていると本屋が見えた。

本屋か。


「本屋...」

「そういやお前、小説書いているよな?」

「う、うん。本屋行くの夢だった」

「そうか。なら行ってみるか」

「ん」


それから俺達は本屋に行く。

そして店内に入ると本がいっぱいだった。

俺は片っ端から見る。

ライトノベルコーナーにやって来た。


「ふあ。らのべがいっぱい」

「そうだな」


俺は再び目を輝かせる奏を見る。

良かった。

気を取り戻したらしい。

考えつつ目の前を見るとそこに...胸が大きなキャラが表紙にインプットされたちょっとえっちなラノベが...。

俺は「いかんいかん」と赤面しながら目を逸らす。


「...」


奏がジッと眉を顰めて冷ややかに俺を見ていた。

俺は冷や汗を噴き出す。

どうしていつもタイミングが合うんだ。

それから目線を逸らした。

すると「む、胸が大きな子が好きなの?」と自らの胸辺りを見ながら言う奏。


「...あのな。なにか誤解している。俺は...」

「...そ、そりゃ僕は胸が、ち、小さいから...女の子にしては」


そう言いながら奏は口をへの字に曲げる。

俺は「...すまない」と言いながら後頭部を掻く。

それから俺は改めてラノベを探してみる。

デカい胸のグラビアアイドルの雑誌があった。


「.....にいさん.....」

「待て。俺は男なんだ。すまないって」

「...私の胸じゃ駄目なの」


小さくぽつぽつ呟く奏。

なんて言った。

考えながら「オイ。なんつった」と聞くが。

奏はボッと赤面して「なんでもない」と首を振って歩いて行ってしまった。

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