第2話 宝物
「...」
「...」
俺達はその衝撃的な事件の後。
リビングのテーブルで向かい合っていた。
因みに俺達の親は仕事なので...俺と奏しか居ない。
というかそれはどうでも良い。
どうなっているんだ。
こんなラブコメアニメの話みたいな事あるか普通?
取りあえず謝らないと。
「すまん。お前が女の子とは思わなかった」
「い、いい。僕が、悪い」
「...」
「...」
俺も思春期の男。
つまり先程の衝撃的な女の子の裸体を忘れるのは難しい訳で...。
煩悩が支配する。
いかんいかん。
義弟だぞ相手は...。
義弟義弟義弟義弟ぎて...
「にい、さん」
「は、はい!?な、なんでしょうか!?」
「僕が女の子なのは、内緒に、して」
「内緒...あ、ああ。分かった」
「僕が女の子、だと。弱い、から」
そう言いながら俯く奏。
俺は「?」を浮かべながらも「ああ。秘密は守る」と言った。
奏は「...ん」と頷く。
パーカーの紐を弄ってから俺をちらちら見る奏。
このオケット・モンスターのパーカーはお気に入りのパーカーらしい。
洗濯機で洗濯していて無かった時は寂しそうな顔をしていた。
「なあ。聞いても良いか」
「ん」
「オケット・モンスターのそのパーカーはお気に入りなのか?」
「お守り」
「...お守り...」
「僕を守ってくれるお守り」
奏はそう言いながらパーカーの紐を弄る。
俺はその姿に「そうか」と返事をした。
それから俺は納得して立ち上がった。
そして俺は錆びたせんべい箱をリビングの棚から取り出した。
埃被ってんなぁ。
「にいさん。なに、それ」
「ああ。すまん。埃払ったら持って行くから」
それから俺は掃除をしてから錆びたせんべい缶をリビングの机に持って行く。
そして俺は開けた。
久々に開ける...感じがする。
5年ぶりぐらいか。
「...!」
奏はその光景を見てから目をパチクリする。
せんべい缶に入っていたもの。
それは昔のオケット・モンスターカードだった。
要は裏面が旧裏面の。
ただぼろぼろだからよくある如く鑑定して売るとかは出来ない。
「俺が昔集めていたオケット・モンスターのカードだ」
「すご、い」
「オケット・モンスターの初代らへんだな」
「見て、も良い?」
「勿論。好きにしてくれ」
それから奏は目を輝かせながらオケット・モンスターのカードを見る。
モゥツーとかそういう強いカードもある。
昔はよく遊んでいたのだが...流石にこの年齢じゃな。
そう思って取っていてもどうしようもないと思っていたのだが。
まさか今となって義弟とのコミュニケーションツールになるとは...。
「いい、な」
「...オケット・モンスターが好きなんだな」
「うん。すき。オケモンカードもすき」
「...ならこれ全部やるよ」
確かこのオケット・モンスターカードは100枚ぐらいはあった筈。
そう思いながら俺は手に取ってから奏を見る。
奏は目をパチクリしていた。
「え」と凝固する。
俺は笑みを浮かべた。
「これは破棄するか迷っていたんだ。オケモンは俺も好きなんだけど...年齢がな」
「そう、なんだ」
「有効活用してくれる人が居るならその人に譲りたい」
そう話すと奏は「...でも」とあたふたする。
年齢に見合わない守ってあげたくなる可愛さだった。
高校1年生なのにな。
そう思いながらくすっと笑いつつ「ただしこれを渡す代わりにお願いがある」と付け加えた。
「な、に?」
「たまにで良い。俺に顔を見せてくれ」
「!」
「...この3か月。お前と話をした記憶はあまり無いから」
「それで、良いの?」
「それで良しだな」
そして俺はせんべい缶に仕舞っていたオケモンカードをそのまま奏に渡す。
奏は「...」と無言になってからせんべい缶を見ていた。
俺は笑みを浮かべる。
すると奏は「待って、て」と言った。
俺は「え?」となってせんべい缶を持って行く奏を見た。
☆
数分後に戻って来た奏。
その手には何か紙束が握られている。
俺は「それは?」と聞くと。
奏は恥ずかしがりながら「自作小説」と答えた。
「おれいを買うにも、外に出れない」
「...!」
「これ、あげる」
そして奏はおずおずと俺に紙束を渡してくる。
タイトルが刻まれていた。
漢字が分からない様でひらがなもある。
だが読める。
そこには「モンスター・テイマー」と刻まれていた。
「凄いな。何文字分なんだ」
「10万文字」
「...10万文字って!!!!?」
「文庫いっさつぶん」
「...マジかよお前」
まさか奏にそんな才能があるとは。
俺は驚愕しながら奏を見る。
奏は恥ずかしいのかパーカーを閉めて俯いた。
俺はその姿を見てから紙束を捲る。
設定はモンスター・テイマーの生後から少女になってお婆さんになっての一生を描いたものだった。
「...」
「どうか、な。設定」
「これ画期的だな。俺はあまり見た事ない。こんな設定は」
「...人に、読ませるのは、はじめてだから」
「そうなんだな。ありがとうな。奏。最高のプレゼントだ」
そう言って俺は奏の頭に触れる。
20センチぐらい身長が違う奏の頭に。
すると奏は「ふあ」と言ってからボッと赤面して俺の手を弾いた。
「は、はずかしいから」
「あ、ああ。すまん」
「にいさんの、ばか」
俺は頬を膨らませてからパーカーを閉める奏を見る。
参考にするならまるで傘を閉じる様な感じ。
俺はその姿にくすっと笑った。
可愛い弟だ。
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