第3章 白虎と砂漠の天使
1.とんでもない夏がはじまった
放課後の部室。
扇風機が「がんばってます」と言いながら回っていた。総合格闘部の練習を終えたあと、荒佐ラウスは床に座り込み、冷えた麦茶を一気に飲み干した。
「ふー。なあ岩尾、青龍ときて朱雀ときたろ? 次もあると思うか?」
「四聖獣か?」岩尾がタオルで首をぬぐう。
「ソーセージ?」
タオルがラウスの頭に落ちた。
「し・せ・い・じゅ・う!」
「そこんとこ詳しく」
「はあ。ふたつも実物に会ってるのにこの知識ってどうよ」
「ふふ。ラウスらしい」ルルまで笑う。
「四聖獣ってのはだな、文字通り四つの聖獣だ。青龍、朱雀、白虎、玄武」
「東が青龍で、南が朱雀、西が白虎、北が玄武……らしいです」
ルルが指で机の上に方角を書いて見せる。
「東が右で、南が下、西が左で……おお、ってことは次は西か!」
「もし時計回りならな。白虎の番だ。でも聖獣が『時計回りで熊に会う』なんて会議してるとも思えん」
「もし虎と熊が戦ったら、どっちが勝つかしら?」ルルがいたずらっぽく微笑む。
「なんだ、珍しく挑戦的だな」岩尾が肩をすくめる。「噛み合ったら熊。けど速さは虎。結局どっちもすごい」
「どっちもすごい、ですか。先輩は、両方ほめるタイプね」
「いや、圧倒的に熊の勝ちだろ。熊なんだから! 」ラウスがすかさず言う。
「話聞けよ」岩尾が吹き出した。
笑いのさなか、コンコン、と扉が叩かれた。宗田エムが顔を出す。
「麦茶のおかわりをお持ちしました」
「サンキュー! 宗田」
「ここ学校なのにどっから麦茶を。家から? 」怪訝な顔の岩尾。
「宗田のやることにいちいち疑問を持ったら負け。気にしない気にしない」
ラウスがしたり顔でアドバイスする。
「坊ちゃまたち、楽しそうで何よりです。――次は白虎でしょうね」
「なぜ確信してるんすか」岩尾が笑う。
「メタ的な大人の理解です」しれっと答える宗田。
そんな放課後だった。誰も、いまの雑談が文字どおり現実になるなんて思っていなかった。
――翌日、同じ部室。
「麦茶をお持ちしました」またも宗田が現れる。
「サンキュー!」とラウス。
部室にはラウスとルルしかいない。
「岩尾さんは?」
「無断欠勤!」
「勤務ではないですね」
そのときラウスのスマホが震えた。画面に「岩尾」。
『当たってたよ。次は白虎だった。いま一緒にいる』
「は?」
読み直す。すぐに写真が届いた。――白い砂の起伏を背に、大きな白い虎の隣で岩尾がピースしている自撮りの写真。
慌てて通話ボタンを押す。
「おい岩尾! どこだよそれ! 誰だよ、それ!」
通信の向こうでざらつく砂のような音。
『おーラウスか。説明むずいけど、とにかくここ。白い砂しかない。隣が白虎。』
「はあ!? どういうこと!」
「え? けんごー先輩、本当に白虎のところに……?」ルルが目を丸くする。
「らしい。なんでお前だけ!」
「ラウス、そこ?」と岩尾の苦笑。『ちょっと待て、聞いてみる。なあ――』
「もうため口かよ!」
『方法……あー、“熊とか人魚とかは動かすのが難しい”って言ってる。俺はたぶん、たまたま通っちまったっぽい』
「いやだから、どうやって行くか聞けって!」
通話が途切れる。
「どうする! 俺だって行きたい!」ラウス。
「坊ちゃま、落ち着いて。こちらから行けばよろしいのです」宗田は相変わらず淡々としている。
「でも、どうやって」
「わたし、思いつきました」ルルが顔を上げた。
「この前の、不死鳥タクシーさんで行きましょう!」
窓の向こうで高い音が鳴った。空気がうねり、カーテンがふくらむ。
「呼んだぁ!?」
不死鳥ファルクが、朝の明るさを背に派手に羽ばたいていた。
「朱雀の島から直行っス! 定期便のご利用ありがとうございますっ!」
「定期便て言うなー!」
「三人っスね? オッケーっス?」
宗田は短くうなずき、レインコートのような薄布を肩にかけた。「砂除けです」
「なんで砂除け?」
「先ほどのお写真、砂漠でしたから。白虎の地は西の砂漠です」
たしかに岩尾と白い虎の後ろは一面の砂の大地が続いているようだった。
「行こう、ラウス」ルルが笑う。
「行く!」
「目的地は“白虎の砂漠”っスよね! 了解、空路作りますっス!」
ファルクの翼が広がる。空気の層がめくれ、部室の砂ぼこりが舞い上がった。
「発進!」ファルクが告げる。
こうして、またとんでもない夏が始まった。
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