1節3話 セイラム魔道学園の女教師ノア・メーア

 ――セイラム魔道学園。ヴァルカ達の通う三年制の学び舎だ。王宮並みに広大な敷地と歴史ある古く巨大な城を校舎に持ち、国どころか大陸有数の規模を誇る。この世界に義務教育はないが、満十五歳を迎えた者が任意で試験を受けて合格すれば入学でき、学びの機会を得ることができるのだ。その学びの範囲は、前世でいう数学や国語といったものだけではない。学園名の通り、この世界にしかない分野を学ぶこともできた。


 それが〝魔道〟である。


 簡単にいえば、前世でのファンタジージャンルの物語に出てくる王道の異能――魔法のことだ。武道や芸道のように体系化されているがゆえに、〝魔道〟と称されている。

 しかしかつてはこの世界にも、〝魔法〟と呼ばれるものも存在していた。それは祭壇など特殊な場所で、魔力を人間ごと丸々生贄として捧げることで自然界の〝法則〟に干渉し、超常的な現象を引き起こすというものだ。しかし扱いの難度が高く、犠牲を必須とし、さらに発動率も効力も不安定だったとのこと。それが後世で安全性・安定性と手軽さを重視して体系化され、〝魔道〟として成立した。現代ではよほど未開の部族とかでない限り、〝魔法〟を使おうとする者はいない。


「一年A組、揃ったな。これより、魔道演習を行う」


 中庭を横断した先の学園敷地の奥には、大きな屋内訓練場がある。中央に直径五十メートル――この世界の表現でいうなら五十メェト近い円形ステージを持ち、高さ十メェトほどの位置で天井が空に蓋をしていた。一言で言えば、ステージの位置以外は前世の学校でいう体育館のような建物だ。


 そんな訓練場に集められたのは、ヴァルカやリィナの所属するクラス一年A組。ステージ脇にふたりを含むクラス総勢五十人が集まり、担任の女教師のノア・メーアに視線を向けている。ちなみに一年生のクラスはE組まで存在する。


「――ミーシャ・レスレメル!」


「はい」


 メーア先生に呼ばれた女子生徒、ミーシャさんが返事した。


「演習の前に前回の講義のおさらいだ。魔道の発動プロセスについて説明してみろ」


 男っぽい口調でメーア先生はミッションを言い渡す。すらっと背が高く、キリッとした目付きに長い黒髪。かっこよさと美しさが同居した妙齢の女性だ。これで勤めてまだ三年ほどらしいが、放つ雰囲気はベテラン――というより、鋭い目付きのせいか少し怖い。


「……体内で〝魔力〟というエネルギーを〝術式〟で変換し、それを体外に放出することで〝魔道〟として発動します」


「そのとおりだ。人は体力や精神力と同じく、魔力というエネルギーを持つ。人によって魔力の〈最大貯蔵量〉は異なるが、これを術式変換で消費することで魔道となる」


 体力や精神力とは異なる体内のエネルギー概念。これは前世の地球人にはなかった肉体の機構だ。そういうところが異世界らしいとヴァルカは感じる。

 メーア先生は右腕を突き出して、手のひらを視線とともにステージに向けた。その先の中央には訓練用ダミーが横一列に五つ並んでいる。十字に重ねて接点を紐でくくった木の棒に、藁を束ねて布で包み、人型に見立てたものだ。微量に淡く光を放っており、強化系の魔道で頑丈になっているのがわかる。


「《火よ、球の塊となりて、我が敵を退けたまえ》!」


 そう詠唱すると、手のひらの直前に前世でいう野球ボールほどの火球が突如発生した。

 そして――。

 ドォン!

 手からひとりでに発射された火球は、猫から逃げるネズミのごとき速さで訓練用ダミーに衝突し、小さな爆発を起こした。ダミーは魔道による頑丈加工で傷ひとつないが、実際に人の身で受ければ大火傷は必至。

 おおっ! と生徒達の中から感嘆の声が上がる。新入生の我らにとって、たとえ初級魔道でも見事な発動には芸術品を見るような感動があった。


「……とまあ、こんな具合か。以前講義で教えた〈ファイヤーボール〉という初級魔道だ」


 そこで先生は人差し指を立てて一を示した。


「ここで一つ注意だ。基本的に魔力は使えば消耗し、肉体は疲弊する。貯蔵量が多かろうが少なかろうが、魔道を使いすぎればやがて枯渇し、処置を怠れば最悪死に至る。そうなる前に睡眠や食事といった休息を取って回復することだ」


「「はいっ!」」と生徒達は口を揃えて答えた。

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