第15話 王様が死んでも飯はうまい

いくら能天気なトオル、タクト、ミミでも――

「それ本当の話ですか?」と聞かざるを得なかった。


なにせ話の内容が「王様、死んだらしい」だったからだ。


「最近税金あげたりよ」「なんか“信用できねぇ銀行”とか作って金集めてんだよな」

「商売めちゃくちゃだよ! マジで感謝してるぜ王様ぁ!」


……と、どうやら**感謝(皮肉)**されていたらしい。

王様の人気、地面スレスレである。


ミミが眉をひそめて聞く。

「王様が亡くなったら、どうなるんでしょうかね?」

商人が肩をすくめた。

「もう落ちるとこまで落ちてっから、あとは上がるしかねぇだろ」


「なるほど。つまり現状が地獄ってことですね」

「そういうこった」


結論:あってもなくても王様の存在は誤差。


とりあえず政治の話はやめようということで、3人はスープをすすった。



三日目の夜。

目的地もそろそろ近い。

旅慣れてきた一行は、手際よくテントを張り、焚き火を囲む。


収納バッグから料理セットを取り出すトオル。

「これがあるだけで、キャンプが文明だな!」

「もうこれ一個で一家に一台の家電だよね!」

「……でも5000万エーンしたけどね」

「値段の話をするな、胃が痛くなる」


商人は二十六名。

見張りは3〜5人。

護衛チームのカイたちは1〜2人。

そして俺たちは……

「一人ずつ交代制、寝落ち禁止」


「はぁーい!」と元気よく返事したミミが、三分後に寝た。



そのころ。


盗賊のダンがせっせと罠を張っていた。

「ふっ……この距離、この角度……完璧だ」

(※寝ぼけて踏むのは9割トオルである)


そして夜も更けたころ。

風がざわめいた。


――ずる、ずる。


何かが、地面を這っている。

それはやがて姿を現した。


歩く樹。

揺れる枝。

幹の奥から、ぼんやりと青い光が漏れる。


「なんか出たぁぁぁぁ!!」


ミミが飛び起き、タクトが寝袋のまま転がる。

トオルは松明を手に叫んだ。


「まさか……歩く森の従者(フォレスト・アテンダント)だ!」


……いや、知ってるわけない。

今、絶対にカイの真似しただけである。


カイが剣を抜きながら前に出た。

「全員下がれ! あれは森の精霊の一種だ! A級モンスターだぞ!」


商人たちは悲鳴を上げ、

トオルたちはドタバタ逃げ回り、

ダンの罠に引っかかって盛大に転倒した。


「ぎゃあああああ!! 俺が引っかかったあああ!!」

「見事に自爆しましたね!」

「やかましいぃぃ!!」


森の奥で、フォレスト・アテンダントの瞳がゆらりと光る。


今夜も――ドジっ子3人組は、生き残れる気がまったくしなかった。



つづく。

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