第9話 キングゴブリンと地獄の追いかけっこ

俺たちは――走っていた。


逃げてた。

全力で。命の限り。涙目で。


相手はキングゴブリン。

……そう、“ゴブリン界の社長クラス”だ。


普通のゴブリンならEランク、群れのリーダーでDランク、

キングになるとCランク扱いになる。

つまり、俺たちFランクパーティにとっては――

「勝算? なにそれおいしいの?」レベルの存在である。


だが今回は、さらにおかしい。

ジェネラル、クイーン、マジック、剣士、弓士……ってお前ら、職業選択の自由か!

どうやら、こいつらで一個部隊が組まれてたらしい。


そりゃ逃げるわ。


最初はね、ただの一匹だったんだ。

「お、単独行動のゴブリン。楽勝じゃね?」って。

で、気配を殺して後をつけたら――


2匹、5匹、8匹と、まるで増えるワカメのように増えていく。


8匹になった時点で俺の心は悟った。

「勝てる気がしねぇ。」


引き返そうとした、その瞬間――見つかった。


まぁ、ここまではまだ良かった。

煙玉を投げて逃げたり、目つぶし用の薬草粉をまいたり、

霧吹きで水をかけて「目にしみるぅ!」と叫ばせたり。

(※意外と効く。次の逃走テクノロジーに残したいレベル)


だが、相手はチームで生きてきた歴戦のゴブリンたち。

逃げてる途中で、

――ピィィィィィッ!

と、笛を吹きやがった。


おい、笛とか反則だろ!?

なに、連携プレイしてんの!?


次の瞬間、森のあちこちからゾロゾロとゴブリン登場。

視界の半分が緑色になった。

ゴブリンの森、完成である。


俺たちはとにかく武器を構える余裕もなく、小盾だけ持って全力疾走。

魔法使いのミミでさえ、杖じゃなくて小盾を左腕に装備して逃げてた。

(本人いわく「今日は防御の日!」らしい。何それ新しい休日?)


木々の間を縫って走る。

矢が飛んできて、ファイアーボールが飛んできて、

俺たちは避けて、転んで、転んで、また避けて――


もはやどっちに向かってるのか誰も分からない。

方向感覚? そんなもんは森の入り口に置いてきた。


そして、最悪のタイミングで出会ってしまった。


――キングゴブリン。


高さ2メートル。肩幅ドアサイズ。

筋肉の密度、たぶん俺の体重の2倍。


しかも手には、どう見ても高級そうな両手斧。

あれだ、多分どこかの不運な冒険者から奪ったやつだ。

きっと本人(故人)は泣いてる。


俺たちは立ち止まる。

前にはキングゴブリン、

後ろにはゴブリン軍団。


逃げ場、なし。


空気が一瞬で凍りつく。

ミミが小声で言った。

「ねえ、これ……詰んでない?」


俺は乾いた笑いを浮かべた。

「……うん。ゲームでいう“全滅ルート”だね。」


そして心の中でつぶやく。


――じ、えんどやん。(悲)

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