推理篇②――密室殺人か否か

 ぼくは攻め手を続ける。

「条件三は『犯行現場の出入り口は、全て施錠されており、解錠しない限り、あらゆる意味で完全に通行が不可能である』だ。『施錠されている』で終わらせずに、『解錠しない限り、通行が不可能』としたのは厳密に見える。でもね――」


「次にアキラくんが言うこと、当ててあげましょうか」

 メグミがぼくの言葉をさえぎった。

「『出入り口』と定義された空間でなければ通行が可能だったかもしれない、でしょう?」


 まさしく言おうとしていた内容を指摘されて、ぼくは二の句を継げない。


 彼女は余裕の表情で笑う。

「『出入り口』とは文字通り、、と定義するわ。扉も窓も隠し通路も天井裏も床下も、あるいは四次元の抜け穴ワームホールであっても! ありとあらゆる『出入り口』は全て、通行不可能なのよ」


 かんなきまでの、徹底的な否定。


「そこまで言われちゃ、しょうがないね。密室の厳密性を認めるよ。究極の密室殺人という題名タイトルの通り、この問題は確かに『密室』と『殺人』を両立しているらしい。でも」

 ぼくは次の推理を放つ。

。完全な密室と完全な殺人は、別個に存在した可能性がある」


「……どうぞ、続けなさい」

 メグミは様子を見る態度で言った。


「冒頭では『左右田そうだけんじょうという人物が、密室空間内で死亡した』と語られたのに対し、条件文では『犯行現場』という単語が用いられていた。これは、『犯行現場』と『密室空間』が、それぞれ別の空間である可能性を示唆している。そして、左右田そうだが死亡したという『密室空間』は、外から施錠しただけの簡易密室かもしれない。犯人は『犯行現場』で左右田そうだを直接的に殺害し、その直後に現場を脱出して『密室空間』の中へ死体を放り込み、再び施錠した。、全ての条件を同時に突破クリアできる!」


「条件一『左右田そうだけんじょうの死は、即死である』」

 メグミの反論が響く。

「アキラくんの『同時』はずいぶんと範囲が広いのね? 即死とは文字通り、犯行の直後、一瞬の間もなく死亡したということ。よって、犯人が『犯行現場』を脱出して『密室空間』に死体を移動させる時間はない。すなわち、『犯行現場』と『密室空間』が別である、という推理は決して成り立たないわ」


「医学における『即死』の定義を、ぼくはぶんにして知らないんだけれど、人間が死に至るにはなんらかの過程プロセスが存在するはずだ。どんな死に方だったとしても、せつの余裕すら一切ない厳密な即死なんて、あり得ないんじゃないかな?」

 苦しまぎれではあるが、こちらも反論を試みる。


べんね。アキレスと亀のパラドックスでも持ち出すつもり? 厳密な意味で、せつの隙があったかどうかは関係ないわ。犯行が行われてから左右田そうだが死亡するまでの間に、犯人が他の行動を行える余裕は一切なかったということ。それで充分でしょう?」


 悔しいが……、正論だ。


 一秒に満たない時間が仮にあったとしても、犯人は何もできないのだから状況はまったく変わらない。

 ここまでの応酬で、『完全な殺人であること』と『完全な密室であること』、そして、それが『同時に、同空間内で起こったこと』が確定してしまった。


 となると、次の攻め手は――。

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