推しに忠誠を誓ったら、学園で『公開プロポーズの君』になりました
古屋いっぽ
第一章
公開プロポーズのはじまり 1
「エリアス様。あなたの瞳はおれの剣より強く、この胸を容易く貫きます」
一瞬のざわめき。床に金属のスプーンが落ちる音。椅子の脚が床を擦る音。そして――静寂。
オルディア王立学園の食堂は木漏れ日のような春の光に満ちていた。歴史ある学園の名物であるステンドグラスが鮮やかな影を落とし、その先に二人の少年がいる。彼らは、その場にいるすべての視線を奪っていた。
まるでお伽話のワンシーンのようなその中で、渦中の人であるノアは―—気絶寸前である。
学園一の美貌を持ち、憧れの的である公爵令息……エリアス・ヴェルデンその人と、初めて言葉を交わすのだ。まさに決死の覚悟で彼はそこに立つ。そのセピア色の瞳は一歩も引かない。
エリアスは、昼食のパンを手にしたままノアを見上げる。切れ長の目がすっと細められ、翡翠の瞳が輝いた。
「その剣は鍛え直した方がいいな」
淡々と、刺すような声だった。
ノアの脳はそれを『否定』として受け取らず、『もっと自分を見てほしい』と心が疼く。
改めて姿勢を正し、その輝く瞳で意気揚々と言い放った。
「これからも、あなただけを想って鍛錬いたします。どうかおれだけを見ていてくれませんか」
「勝手に頑張りたまえ」
「はい!」
あまりにも無感情な声だと言うのに、ノアは有頂天で食堂の壁際の席へと戻っていく。そこには、彼と同じ騎士科の友人が座っていた。
「入学から一年……! 君の教えのおかげでやっと彼と会話ができた。あぁ……もう胸がいっぱい」
一人だけ有頂天のノアに、友人は大きな罪悪感を抱き始める。その、緩み切った子犬のような顔に向かって、咳払いした。
「その……すまない。私が君に教えていたのは令嬢向けの口説き文句だ」
「うん? 社交界向けの言葉遊びということ? もしかして失礼だったとか……?」
さっと血の気が引き、慌ててエリアスを見るが彼は特に気にしている素振りもなく黙々と食事を続けている。
しかし、彼以外の視線がノアとエリアスを行き来していることもあり、何かしら間違いを犯したのではないかと不安がよぎる。
真っ青な顔で向き直ると、友人はとびきりの笑顔で言った。
「言うなれば愛の言葉遊びだな。時と場合では愛の告白とも言う」
「アイ?」
「そう、愛の告白」
沈黙。
ノアは少し考えたのち、もう一度エリアスの方を見る。ちょうど食事を終えたのか立ち上がった彼と目が合った。
――――軽蔑。
その翡翠の瞳に宿る、ありありとした嫌悪感を目の当たりにして、ノアは息が止まる。死人の方がまだ生気があるのではと思えるほどの青白い顔で座り直す彼に、友人は憐れむように微笑んだ。
「ずいぶん嫌われたなぁ」
「し……死んでしまいたい」
両手で頭を抱え、ノアは絶望した。学園の楽しみの九割を占めていた推しに認知される代償に、彼の好感度は地に落ちたのである。
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