クール系女騎士の適性魔法が『火』でも『水』でもなく『妹属性』だった場合   〜戦争に勝つためとはいえ、この私がキュルルン上目遣い〜

辺理可付加

どっちかっていうと呪いの類いかもしれない

第1話 脳筋でも悩む容量はある

 フューガ・ミュラー 2X歳女性 職業:騎士団長


 私には悩みがある。

 それは











「おぉ、ミュラー」


 白十字しろじゅうじ王国 南方方面軍

 最前線、レガロ城


 窓から差す青白い月明かりと、壁掛けのランタンが混ざる廊下。


 背後から声を掛けられた。


「なんだ」


 振り返ると、中年の騎士が立っている。


 青いマント。

 第二騎士団長のザウバーだ。


 彼は私へ、右手に持った干し肉を突き出す。


「コイツを炙ってくれないか」

「自分でやれ」

「そう言うなよ。今から月見で1杯やるんだ。分けてやるからさ」


 ヘラヘラしやがって。

 キサマの魂胆は読めているぞ。


「なんだ、そうまでして私を誘う口実が欲しいか。オマエ私大好きだな」

「確かにそこそこ悪くないツラだが……オレは小柄で童顔な方が好みでな」

「失せろ変態」

「まぁまぁまぁ」


 そりゃ知ってる。

 このまえはランタンに火を着けてやったよな。


 あのあと街で、そんな感じの娼婦と歩いているオマエを見たよ。

 アゴヒゲに着火してやればよかった。


 むしろ好みから外れて光栄なくらいだ。


 だから早くゲロってしまえ。

 オマエの魂胆を。


「頼むよ。



 オマエの火属性魔法なら、間違っても暴発しない」



 だろうな!


「貸せ」

「おっ、やった」


 干し肉をひったくり、指先に灯した火で炙る。


 香ばしいが不愉快だ。

 村が焼ける匂いに似ているのもあるが、


「できたぞ」

「すまんね。で、一緒に飲むか?」

「ジュノーでも誘え。童顔低身長だ」

「男じゃねぇか」

「じゃあな。深酒するなよ」











「チクショウ! バカにしやがって!!」

「フューちゃん……」


 20分後。

 深酒しているのは私の方だ。


 それも副官のアネッサ・トゥルネー女史を相手に絡み酒。

 部屋に乗り込んで逃げ場も与えず。

 我ながら最悪だな。


「またイジワルされたんだね?」

「おのれ、やはり1回殴らんと分からないか!?」

「ちゃんと分かる頭が残るようにね?」


 あぁ、なんと丁寧な受け応え。

 ほんわかとして、包容力がある。


 うなじに掛かる茶髪の私と違って、長い黒髪。

 見た目からして、女性的な柔らかい雰囲気にあふれている。



 そんな彼女でも『イジワル』と分かるほど、

 私への扱いはイヤミに満ちたものだ。



 先ごろのザウパーとのやりとり。

 ありゃ


『オマエの技術なら万に一つもミスはない』


 なんて話じゃない。

 むしろ逆。


 アイツの干し肉を炙ってやった、蝋燭のような愛らしい火。



 アレが私の本気の8割だ。



 下手すりゃ童顔低身長の娼婦でも出せる威力。


 それが騎士ともなれば、戦場で使えるレベルの一つもあるのが当然。


 つまり、さっきのアレは



『オマエ程度の魔法じゃ、干し肉以上のものは炙れまい』



 とバカにするのが目的だったわけだ。

 たびたびやらされて、すっかり匂いが嫌いになった。



「バカにしやがって! バカにしやがって!」

「でもね? ひがみも入ってると思うよー? 胸張って?」

「そんなもんか?」

「そりゃ『女性に腕っぷしで負ける』っていうのはね」


 これだから男は女々しい。

 やっかむ暇があったらフル・プランクしろ。

 筋肥大もいいが体幹を安定させろ。


「チクショウ。正面から後頭部に手を回して、懸垂の要領でアゴに膝蹴りかましてやりたい」

「シチュエーションの指定が細かいよ」


 酒だ酒!

 かめに手を伸ばすと、アネッサが水差しと入れ替える。


「まぁまぁまぁ。こんなうっすいハチミツ酒で酔ってないでさ。

 明日から第四騎士団私たち、休暇でしょ? ロカールでいいブドウ酒飲もうよ」

「ぐうううぅぅ」


『これ以上副官を困らせるな』


 私の僅かな理性が囁いている。

 その理性もボヤけそうなほど、酔いと眠気が回ってきた。


「さ、もう寝よ? ベッド貸すよぉ?」

「それは悪い……部屋に戻るよ」

「いいよいいよ、気にしないで。その足でお部屋戻れないでしょ?」

「でもアネッサの寝るスペースが」

「狭いけどくっ付けば大丈夫だよ」

「まえに部屋から出るところ見られて……変な噂が……立ったろ……眠……」

「いいのいいの!


 それが狙いだから」


 えっ











 翌朝、二日酔いの頭に昨晩の記憶はない。

 そんなことより、私たち第四騎士団は一時前線を離れ



 二日かけて、南方方面軍総督府があるロカールへ移動した。



「相変わらずここは賑やかだな」

「前線から遠いと、住んでる人も活気があるね」


 今は3日目の昼。

 アネッサと二人、馬に乗って大通りをぶらついている。


 総督府になるだけあって、元より大きく栄えた都市ではある。

 だが、アネッサの言う面もあるだろう。


 証拠に、今日も私たちは鎧を着込んでいるのだが(外出に規定がある)


「見て見て! 騎士いる! 騎士!」

「女騎士か。大変な仕事だろうに、立派だなぁ」

「騎士さーん! パン買ってかなーい?」

「わぁ! お馬さ〜ん!」


 いい意味で、市民からの変な敬意とか距離感がない。

『戦争があって、騎士に守られている』

 という感覚が薄いんだろう。


 みんな『めずらしいモン見た』の範疇で絡んでくる。



「そこの騎士のお嬢さん」

「ん?」



 ふと聞こえてきた老婆の声も、そのなかの一人だった。


 振り返ると、路地の闇に溶けるように



 黒いローブの老婆が佇んでいる。



 怪しい、ってか、見すぼらしいか。


「どうした。物乞いか?」


 よくあることだ。

 本部からも『施し』は奨励されている。


 コインの幾らかくれてやろう。


 馬を寄せると、老婆が手を挙げる。

 そういうんじゃないらしい。


 そのまま人差し指以外を折り曲げ、


「マントをしとるお方」

「私か?」


 顔を真っ直ぐ指差してくる。


 フードで鼻から上は見えないが、目が光ったような。


「アンタさん、



 いいモノを持っとるね?」

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