第2話 2度目の魔力鑑定

 いいもの?

 あぁ。


「すまない。このつるぎは官給品だ」


 欲しがるマニアがいるとは聞くな。

 だがやれん。


「まぁ、今回はこれで」


 と、コインを摘んで差し出した右手の



「そういうことじゃないよ」



「うおっ!」


 手首を老婆につかまれる。

 しかも引っ張られて、おお、意外に力強いな!?


「団長に何をする!」

「アネッサ!」

「フュ、団長」

「抜くなよ」


 騎士が市民に剣を向けたら問題になる。


 ただ、アネッサを制するために左手も手綱を放した。

 両腕を反対方向に伸ばしてカカシ状態だ。


「婆さん、今引っ張るなよ? さすがに落馬したら、私も保証せん」

「じゃあ馬を下りて着いてきな」


 コイツ、しないぞ。


「キサマ、いい加減に!」

「アネッサ」


 今度は直接アネッサの胸を押さえる。


「しかし団長!」


「あー、その婆さんは相手にしない方がいいよ」


 不意に右斜め後ろから声。

 振り返ると小麦粉売りのオッサンがため息。


「ソイツちょっとオカシイんだ。元は王都で魔法鑑定士やってたって話だが、今はなぁ」


 あぁ、あの騎士選抜試験で


『オマエの魔力はこんくらい』

『向いてる属性はコレ』


 とか言ってくるヤツか。


 苦い思い出のある相手だよ。


「騎士さんなら鑑定済みだろ? 相手にすることないよって」


 他の市民の様子を見ても、みんな八の字眉だ。

 よろしくない浮き方をしていると窺える。

 強引だしな。


「フューちゃん、早く行こ」


 アネッサが不快感のあまり、プライベートな呼び方をポロっている。

 まぁいいけど。


 それより、



「分かった。どこまで着いてきゃいいんだ?」



「フューちゃん!?」

「すぐ近くに私の店があるよ」

「そんな顔するなアネッサ。耳を貸せ」

「はい」


(ヤク中かもしれん。治安維持も騎士の仕事だ)

(あぁ、確かに)


 本当は我々ではなく地元の駐留騎士団がやること。権限はないのだが。

 ま、釘刺しにはなるだろうて。


「重ねて言っておくが、妙な真似をしたら承知せんぞ。

 この剣は官給品だ。よくも悪くも普通の切れ味だぞ」

「分かってるよ。騎士さまに無闇に逆らうもんかい」

「なら副官の同行にも従うな」

「私ゃ構わないよ。ほら、こっちだ。路地を抜けた先さ」


 逆らわないなら、絡まないでほしいもんだが。











 路地を抜けた先は、建物に囲まれた街の死角

 なんてのも警戒していたが。


 普通に隣の通りへ出るだけか。

 なら店というのも、そうそう変なものでは……



 妙に細長い紫色のレンガの家。

 普通にキモいな。



 なんだこれ。左右の建物に押し潰されてんのか。

 倍の幅あってやっと『やや狭い』だぞ。


「馬はドアノッカーにでも繋いどくれ」


 玄関周りも、変な小人の置物と、枯れてんのか正常か分からん鉢植えしかない。

 私だったら街で一番うまい酒場でも入らない。



「ほら、入りな」

「うわぁ」


 アネッサ。気持ちは分かるがストレートすぎだ。

 ただ、


 左右の棚で圧迫され、すれ違うこともできない空間。

 カビ臭いしホコリっぽい。あと暗い。窓がない。

 人の住む環境じゃないぞ。


 棚、左は大量の怪しい本

 はまだいいが、右は虫や小動物の瓶詰め

 こんなもん鑑定署で見たことないぞ。何に使うんだよ。


 で、奥には



「じゃあ鑑定を始めようかね」



 黒魔術の祭壇かよ。


 わざわざ天蓋カーテンまで掛けて。

 そのくせ昼間っから蝋燭いっぱい灯して。


 テーブルの上には、よく分からん文字いっぱいのボード。

 何がモチーフの、何? なタリスマン、かな?

 その趣味悪い金ピカナイフは、刺してきたりしないだろうな。


 総じて意味分からん。

 ワンチャン『気味が悪い』で捕縛、立件、百叩きの刑にできそうだ。


「どうするのフューちゃん? こんなに狭いと剣抜けないよ」


 アネッサはもう切ることしか頭にないか。


 だが老婆も空気を読む頭はない。

 座に着いて、私にも座るように促す。

 テーブルを挟んで向き合う構図だ。


「さて、水晶に手を置いてごらん」

「ほー、思ったより一般的な鑑定方法だな」

「中央仕込みさね」


 中央もこんな異空間センスは仕込まんと思うがな。


 だがやることは王道、というか他を知らん。


 被験者が手を置くと水晶玉が光る。

 その強さで魔力量、色合いで向いている属性を調べるというヤツだ。


「言っておくがな婆さん。私はもう経験済みだ。結果は知っている」


 しかも恥になるような、な。


「まぁそう言わずに」


 ほーう。

 いいだろう、そこまで言うなら付き合ってやろう。

 騎士とは思えない結果を出して、気まずい空気にしてやる。


 遠慮なく水晶玉を鷲づかみにしてやると



 暗い部屋には、目に毒なくらいの光が迸る。



 今アネッサがうめいたな。


「私の見込んだとおりだ。


 アンタ、とんでもない量の魔力を持ってる」


 老婆よ。世紀の発見のように言うがな、



 今更の話だぞ。



 実は私も、魔力がないわけじゃない。


 ただ、


「だからこそ不思議だったのさ。なのにアンタの魔力回路は、不自然なほど細くてキレイだ」

「そんなものが見えるのかね。聞いたこともない、超一流の鑑定士だ。本当に見えているならな」

「アンタ、全然魔法を使っていないね?」

「光を見ろ婆さん」


 色合いは属性の適性で変わる。


 火属性なら赤、水属性なら青、って感じにな。


 適性がある色ほど割合が濃く、それらが混ざった光が出る。


 が私の場合は、



「真っ白だ。お姫さまの肌でも、ここまで純白じゃないぞ?」



 どの色も着いちゃいない。

 つまり



 全ての属性に適性がない。



 例えるなら、


『パワーやスタミナはあるが、ボールを蹴るセンスはない』


 ってところだ。


 それがむしろ、バカにする風潮を加速させてすらいる。



「残念だったな。宝の持ち腐れなんだよ。アネッサ、帰ろうか」

「うん」


 はー、やれやれ。

 機嫌直しに何か食いに行こう。


「お待ち」


 なんだ婆さん。例になく鋭い声を出すじゃないか。

 水晶に置いた手首までつかんで。


「手を離せババア!」

「アネッサ」

「触っていいのは私だけだよ!」

「ん?」


 でも婆さん、終始威嚇なんか意に介さない。

 どころか不敵にニヤリと笑う。


「いいかい? アンタに


『色がない』

『適性がない』


 てのは間違いだ」


「は?」


「本当に『色がない』なら、透明のはずだろう?



『白』って色が出てるじゃないか」



 確かに。

 だが、そうだとしてもだ。


「言いたいことは分かるが、どんな色混ぜたって白にはならんぞ? 単に病気かなんかじゃないのかね?」

「違うね」


 食い気味だな。

 首を左右に振ったあと、力強い目で私の目を見る。


「実はあるんだよ。今や伝説上の存在となった、



『白』で表される第五の属性が」



「なんだって?」


 初耳だ。

 いや、私が魔法に興味なさすぎるだけかもしれんが。


 いや、アネッサも首を左右へ振っている。

 やっぱりウソか弩級にマイナーなんだろう。


「それは」

「それは……?」


 ふむ。

 与太話だろうが、ツバを飲むくらいにはおもしろい。



 さぁ、言ってみろババア!


 その属性は!






「『妹属性』だよ」






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