チャプター2 砂漠生活
第25話 ツヴァイ遺跡
「ダイチ! そっちに行ったわ!」
俺は危機を知らせるヨーコの声と、アンドロイド――旧文明の時代に作られた作業用ロボット――の足音を聞き、おおよそ後3秒で視界に入ってくると判断した。
「ディメンション・ゼロ!」
左手の掌を前に突き出し、俺が契約した情報体の名を呼ぶ。すると――。
拳大の黒い球体が空間に出現。瞬間移動を行うための起点となるため、ゲートと呼んでいる。
俺が大きく右腕を振り被った瞬間、通路の角からアンドロイドが姿を現した。
金属で作られた銀色の人形のような姿。遺跡を荒らす人間を排除しようとする、番犬ならぬ番機だ。
そいつは俺の姿を認めると、右腕の大砲(持っているわけではなく、右腕そのものが大砲になっているのだ)を向けてきた。
俺はゲートに拳を叩きつけ、叫ぶ。
「
30メートルほど後方の壁に、俺の血液を塗っておいた。
俺の血に含まれるDNAが、俺の声と動きに反応――周辺の物質を巻き込んで消失。
えぐりとられるような形で消えた硬質な石壁は、拳大の弾丸となってアンドロイドの目の前に出現した。
それは、30メートルの距離を一気に飛び越えたのと同じ加速度を持っている。
――ばぎゃっ!! 金属を破砕する音とともに、超高速で飛ぶ石くれが銀の胴体を撃ち抜いた。
石はそのまま通路の壁に直撃し、壁の石材もろとも砕け散る。
ががっ、ぴぃ――――。
胴体をめちゃめちゃに破壊されたアンドロイドは電子音の悲鳴を上げながら崩れ落ち、がらがらと部品を飛び散らせた。
アンドロイドが機能停止したのを確認したらしい。長い黒髪を揺らして、女の子が通路から現れた。
長い睫毛に縁どられた目を細め、口の片方だけで笑っている。かっこいい。
「お疲れ様、ダイチ。私の銃じゃ、あの装甲板が
そういって黒髪の少女――ヨーコは腰のホルスターにリボルバーを差し込んだ。
俺は照れて頭に手をやる。
「いやあ……うかつに触った人形がまさか動き出すとは……いつもご迷惑をおかけして誠に申し訳」
「申し訳、で言葉を止められるとむずむずするわ。ちゃんと喋りなさい」
俺達はツヴァイ遺跡を出て、付近に停車していたトレーラーに歩み寄る。
背負った袋に電子機器や古い銃器などをいっぱいに詰めているので重たい。
袋の口からは、先ほど倒したアンドロイドの頭が飛び出している。
「ふらふらしてるわよ、ダイチ。私が持とうか?」
「イヤッス。ヨーコに荷物持たせるのだけはプライドが許さないッス」
「なにその変な敬語」
トレーラーの運転席の窓を開け、目をゴーグルで覆った女の子が顔を出した。
短く切り揃えられた、くすんだ色の金髪。青いツナギ。トレーダーのガンマだ。
彼女はゴーグルを額に上げ、俺達の戦果である袋に目をやった。
「おお、なんすかそのアンドロイドの頭」
「いいだろ。運転席に置いたらカタカタして楽しいかもよ」
「んなもん置いたら邪魔くせえっす。無駄口叩いてないでさっさと乗るっすよ」
俺とヨーコはトレーラーの貨物用コンテナに乗り込んだ。
設えてあるベンチに腰掛け、一息。
「今日もありがと。いつも迷惑かけてごめんよ」
「いちいち謝らないの。私だって助けてもらってるんだから……。でも、変なものにとりあえず触ってみる癖は直しなさい」
「はい、気をつけます……」
◇◇◇
コールドスリープから目覚め、俺が砂漠に生きる人々の集まりであるトライブの
俺とヨーコはコンビを組み、遺跡の発掘や人を襲うモンスター退治をして暮らしていた。
さっき行ったツヴァイ遺跡は、イェソドと敵対しているトライブ、ホドが主な狩場としていた場所だ。
だがホドは付近に展開していた野営地を俺達によって壊滅させられ、本拠地に撤退した。
おかげでイェソドはホドの人間に邪魔されることなく遺跡を漁ることができるようになったのだった。
ホドが既にめぼしいものを取りつくしているんじゃないか――そんな心配は杞憂に終わった。
強力なアンドロイドが守っている部屋があり、そこに攻め入ることはできなかったようだ。
俺達はそこに侵入し金目の物を探していたところ、あのアンドロイドに俺が触れてしまって襲われたというわけだ。
もしかしたら俺が触らなくても動き出したのかもしれないが、俺がうかつだったことに変わりはない。
動く殺戮機械が、いきなり砲口を向けてきた事に驚愕している俺を助けるため、ヨーコはアンドロイドに強烈なキックをお見舞いし、弾き飛ばしてくれた。
その後、俺を追ってきたアンドロイドを俺の情報体――ディメンション・ゼロの能力で石を射出し、破壊したというわけだ。
これが、主観では2ヶ月前まで高校生をやっていた俺の、砂漠での日常だ。
実際、俺がコールドスリープされてからどれだけの時間が経ったのかはわからない。でも俺にとっては起きたらいきなりこの砂漠に来ていたのと同義だった。
しかし、ヨーコを始めとした周りの皆の助けにより、なんとか俺は今日も生きている。
イェソドの一員として、頑張ろう。
「電子機器系は教会のやつが高く買ってくれるっすからねえ。銃は直して使えるし、上々の戦果っすな」
コンテナの覗き窓をガンマが開け、ほくほく顔で話しかけてきた。
俺は買いたいものがあったのを思い出す。
「あー、そうだ。また水が足りなくなってきたんだよ。後で100リットルくらい売ってくれ」
「まいどーっす。運賃はオマケしとくっす」
「悪ぃな。助かるよ」
「そんなの当然っす。イェソドはお得意さんっすから」
仕事した感たっぷりでベンチに座り直すと、ヨーコが微笑みかけてきた。
「もうすっかりイェソドの一員ね。ダイチ」
整った顔でまじまじと見られると、背筋がぞわぞわしてくる。俺は茶化し要員を呼ぶことにした。
「ああ、まあね。――おい、ディメンション・ゼロ! お前、今回情報体が居なかったから、無効化能力の出番なかったよな! 今月お小遣い抜きよ!」
コンテナの天井をすり抜けて、
両手を組み、お願いのポーズをしている。
「イヤー! お母さんそれだけはカンベンして! 買いたいゲームがあるノ!」
「ゲームばっかりやってないで勉強しなさい! またテスト赤点だったでしょ!」
「オニー! オニババ! オイラ
「あっ、コラ! もうすぐご飯よ! 食べてからにしなさい!」
「なんでダヨ! メシ食ってから
俺達の漫才を見て、ヨーコがため息をついた。
「相変わらず騒がしい人達ね……よくもまあ毎日毎日そんな掛け合いができるわね」
「ヨーコも混ざる? トリオ漫才」
「恥ずかしいから絶対に嫌」
俺は砂漠の生活に適応しようとしていた。ていうか既に満喫している。
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