愛しの後輩
朝の光が静かに差し込む部屋で、
愛しの後輩が、隣で寝ている。
いつもとは違う朝だ。
寝顔もかわいいなぁ…
可愛すぎる寝顔を眺めていると、彼女の長いまつ毛が微かに動く。
そして、瞼がゆっくりと――少しずつ光を受け入れるように開いていく。
とろりとした目つきで、私を不思議そうに見つめる。
「ん………みほさん?」
「梨竹さん、おはよう」
「おはよう…ございます…」
眠たそうに挨拶をする。
かわいい…
「あ、そうか…わたし昨日…」
昨日のことを思い出したように呟いている。
どれくらい覚えてるんだろう…。
「ごめんなさい。急に来ちゃって…」
「大丈夫だよ。まぁ…びっくりしたけど」
「会いたくなって…来ました」
「え…?」
その一言で、胸の奥が一気に熱を帯びた。
彼女の酔いはもうとっくにさめているはずなのに…じゃあ、昨日のことは――
「昨日のこと、覚えてるの?」
期待と不安が入り混じって、声が少し震える。
「…覚えてたら嫌ですか?」
こちらの不安定な気持ちが伝わってしまったのか、彼女も不安そうに聞き返す。
「い、嫌じゃないよ!…でも」
――でも、覚えてるなら私は、彼女に確認したいこと…いや、確認すべき事がある。それを彼女に聞くということは、彼女の気持ちも私の気持ちもさらけ出すことになる。
それが怖かった。
「ごめんなさい…私、美穂さんを困らせてますよね…」
「いや、その…困ってはいるんだけど、別に梨竹さんのせいじゃないというか…うーん。」
あー、だめだ。
このままじゃ、また、はぐらかして逃げてしまう。
勇気を出せ!わたし!!
「梨竹さん」
「はい」
「昨日のこと覚えてるなら、言ってたことは本音…なのかな?」
「…本音です」
不安がひとつ消えた。
でも、素直に喜べない自分がいる。
好きになった時から、心の隅にあった黒い塊――好きになってしまったこと、彼氏の存在、独占欲…
色んな思いが素直な喜びを邪魔をする。
少し考え込んでいると、私の心の中を見透かしたかのように、彼女の方から話してくれた。
「美穂さんと渡瀬さんがいちゃいちゃしてるのを見て、心がザワザワしたんです。」
いちゃいちゃ…は、してないんだけどなー
と、返したかったけど、梨竹さんの話をそのまま聞くことにした。
「このざわつき以外にも、美穂さんのことをまだ追うようになったり、会いたくなったり…なんか恋してるみたいで…でも」
梨竹さんの言葉が詰まる。
私が引っかかってた黒い塊。梨竹さんにも同じようなものがあるのかもと思った。勘だけど。
言葉を選んでるのか、私たちの間に静かな沈黙が流れる。
うーん…と考えている彼女が、人差し指をあごに当てて首を傾げている。
こんな状況でも、私はそのあざとさに釘付けになる。考えてる仕草も可愛くてほんと困る。
そんな私に気づいてない彼女は、何かを決意したかのように、そっと手をおろしこちらを見つめる。
「美穂さんにあんなこと伝えるのずるいってわかってたんですけど…気持ちをごまかしたくなくて、でも勇気出ないから、お酒の力借りたというか…」
少し恥ずかしそうに話す梨竹さん。
うん、かわいい。
いや、真面目に聞けよ私。
「それと…美穂さんの気持ちも嬉しくて、昨日好きって言ってくれt…」
「ちょっっっとまった。え?ね、寝てたんじゃないの?」
「美穂さんがベッドに寝かせてくれた時、ちょっと目が覚めて、でも眠たいから目は瞑ってたら、好きって…」
恥ずかしすぎる…聞かれてたのか〜〜。
「うぅ…恥ずかしい」
頭を抱える私を見て、梨竹さんはくすくすと笑っている。
「美穂さんが…好きって言ってくれて嬉しかったです。その言葉があったから、私、自分の気持ちにちゃんと気づけたんです。」
顔をあげると、私のことを笑っていた梨竹さんじゃなくなってて、まっすぐな眼差しで、でも柔らかい表情でこちらを見ていた。
「でも、私の気持ちを美穂さんに伝えるより前に、しなくちゃいけないこと……彼氏と向き合わなくちゃいけないので、少し時間をくれませんか…?」
そう言いながら梨竹さんは、私の手を両手でつかみ願いを込めるように握る。
彼女からその言葉を聞いた瞬間、私の中の黒い塊――彼氏の存在がちらつくたび胸に沈んでいた罪悪感は少し薄れていった。
そして、梨竹さんへの返事はもちろん――
「うん。待つよ。ちゃんと考えてくれてありがとうね。」
「えへへ、よかった。」
いつもの笑顔だ。
普段の梨竹さんは、あざとくて、可愛くて、仕事をしっかりこなして、いつもかわいい笑顔で…私はそんな彼女を眺めるだけで幸せだった。
梨竹さんが、私のことを考えてくれてたなんてびっくりで、それと同時に幸せすぎて。
まだちゃんと気持ち聞いたわけじゃないけど…でも、梨竹さんがふざけたり、嘘ついたりするような子ではない事はわかるから、私は信じて待つ。
梨竹さんが、しなくちゃいけないことを終えたら、私もちゃんと気持ちを伝えよう…
安堵したように笑う梨竹さんを見つめながら、私は胸の奥で小さく灯った"伝える勇気"をそっと抱きしめた。
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