私の理性がんばれ




「ふふ、もっと撫でてください…撫でられるのすき」


「撫でられるのすき」

「すき」

―――好き。


梨竹さんの言葉が脳裏で繰り返される。

見ての通り、私は上の空である。


私を狂わせた当の本人は、シャワーを浴びている。廊下と寝室を隔てるドア、その奥の方から聞こえるシャワーの音と可愛い鼻歌。


梨竹さんのあの言葉のあと、私は、思う存分撫でた。ふにゃふにゃ嬉しそうにしている梨竹さんを眺めながら撫でた。うん、可愛すぎて半分意識失いかけてたけど…。


いっぱい撫でたからなのか彼女はご機嫌である。彼氏と喧嘩中なんて忘れてるんじゃないかってくらい。

彼氏の気持ちもわかるよ…

あんな可愛い子、どこかへ行ってしまわないか不安だよねー。誰かに取られないかそわそわしちゃうよね…。わかる。

わたしも独り占めしてしまいたい……


私の欲望がちらちらと顔を出す。

抑えないといけないのに。

――踏み込んじゃいけない

独り占めなんてできない、あの子が私のことを恋愛的に好きになることなんてない…。

わかってる。

わかってるのに…あの子の無自覚なあざとさに、いつも騙される。





がちゃ…


「気持ちよかった〜、美穂さんお風呂ありがとうございました!」


梨竹さんがお風呂から帰ってきた。


ひとり考え込んでいたから、声が暗くならないよう気をつけて、梨竹さんに返事をしようと彼女のいる方へ視線を向けた。


「おかえり〜、スッキリし……」


言葉が不自然に止まる。


わたしの瞳の中に映る梨竹さんがあまりにも無防備な姿で、欲の塊のわたしは今にも鼻血が出てしまいそうだった。


「服、用意してくださってありがとうございます!…でもちょっと大きいかも?」


そう言いながら、小柄な梨竹さんには大きくゆるいTシャツの裾をゆらゆらと揺らして見せる。


(っ…!?見える見える!!)


お尻がギリ隠れるくらいの丈。

揺れるたびに、"境界線"の向こう側が見えてしまいそうで焦る。


「ご、ごめんごめん。梨竹さん小柄だもんね…大きかったね、はは…」


見てはいけない…のに、目が勝手に追いかけてしまう――急いで視線を梨竹さんから、目の前にある水が少し残っているグラスに向ける。



この子が家に来てからというもの、動揺を隠しきれてない気がする……頑張れわたし!!



「じ、じゃあ、私もシャワー浴びてくるね。てきとうにゆっくりしてて!」


逃げるようにお風呂場へ向かう。


くいっ


梨竹さんとすれ違った瞬間、服の裾を引っ張られて足を止める。



「…早く戻ってきてくださいね?」



上目遣いに、濡れた髪…ピンク色に染まった頬

ゆるい首元から見える鎖骨が色っぽい…

わたしの理性を壊すには十分すぎる要素が溢れていた。





2人の空間だけ時間が止まったような…


ほのかに流れる危険な香り―――










これ以上この子に触れたら、

もう、戻れない気がした。




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