〈4〉カトキチが部屋に来たのは4時半頃

カトキチが部屋に来たのは4時半頃


(ヤッパ、カトキチがイイネ)


と、言うので仕方なく“カトキチ”に戻してあげました

そして、お迎えの時間がこの時間なのは

バリの日没が釣瓶落としだから


(クラクなるマエにカエロウ)


と言って、カトキチがボクを近所の

ご飯屋さんに連れて行ってくれました

サテ・アヤム、ミー・ゴレンなんかを食べながら

ボクの胃袋も丈夫になったものだと感心していると

(シメはマッシュルーム・スープね)

と、カトキチが言うのでした

「シメ?」


〈お待たせしました〉


と、言ってお店の人が

運んで来たのはマッシュルーム

と、言うよりは“シメジ”に近いキノコのスープでした


(25個にしておいたから)

「25個?」

(マッシュルームの数だよ)

「そう、ありがとう」

(メシアガレ)


“5”は確か“バリ・ヒンドゥ”に於ける

“縁起の良い数字”と記憶しています

こんなところでも担ぐのかと、思いました


(オムレツもイイけど)

「いいけど?」

(スープはソコにスナがノコルからタベヤスイ)

「食べ易い?」

(スナはタベない)

「了解」


そのキノコはやはり食感も“シメジ”でしたが

味付けはバリには珍しく塩コショウでした

(オイシイ?)

と、聞かれれば美味しいのかな?

くらいの、あっさり味でした


「カトキチもどうぞ」

(イイから)

「食べないの?」

(コンヤはガヤのパーリーだから)

また、ガヤです

(オクルからアンシンして)

「安心?」

(タベテ、タベテ)


スープボウルの底がジャリジャリしてきたところで、カトキチが

(カエロウ)

と、言いました、お酒の習慣のないバリ・ヒンドゥの食事は

短いと聞いていましたが、今夜は何だか

特に急いでいるように感じます


「何か用事でも?」

(オタノシミはコレカラだから)

「お楽しみ?」

(ヤア)

「コレカラ?」

(ヤ)


それからカトキチはボクをコテージの部屋へ連れて帰りました

途中で、ミネラルウォーターのペットボトルをワンパックと

チェーンのついたクッキーの缶をひとつ買い求めました


「コレは?」

(ノドがカワイタラ、ノンで)

「はい」

(オナカがスイタラ、タベて)

「わかった」


カトキチはボクの部屋に一緒に入ると照明を落とし、音楽のスイッチを入れ

シングルベッドふたつをひとつにくっつけ、それから

ボクをジッと、見つめるのでした


「ナニか?」

(ソロソロかな?)

「ナニがソロソロ?」


それからカトキチはサイドテーブルにクッキーの缶と

ミネラルウォーターのペットボトルを置いて

今度はボクのとなりに座り直し、また

ボクをジッと、見つめるのでした


「だから、何?」

(ネムクナイ?)

「眠くないよ、だってまだ、こんな時間だし」

時計の針は、6時半を指していました

(ソトはもう、クライよ)

「そうだけど」


確かにこれから、釣瓶落とし的にバリの夜は加速して行くのですが

いったいこれのどこがマッシュルーム・パーリーなのでしょう?

この儀式はいったい、何時まで続くのでしょう?

なんて思っていると、ボクの中で

“ストン”と音がしました


「アレ?」

(キタ?)

「アレ?アレ?」

(イッツァ・ショウタイム!)

カトキチはボクの膝を“ポンッ”と叩くと

(エンジョイ)

と、言って部屋を出ていきました


そして、なんでしょう

さっき、カトキチの触れたところが

妙な感じです、確かめようと手を伸ばすと

支えを無くしたボクのカラダが沈みます

ああ、なんだか落ちて行きます

どんどん、どんどん

堕ちて行きます


そして

いつの間にか

瞼の裏に音楽図鑑

坂本龍一の具象と抽象が

合わせカガミのボクを見つめてる

かさなる透明、止まないアーキテクト

消失点を失くしたパースペクティブ、これが

マッシュルーム・パーリーなの?これが合格セレモニーなの?


喉が渇いたのでミネラルウォーターを飲みました、お腹が空いたので

クッキーを食べます、食道から胃袋へ転がるコロコロ


(プールはダメだから)

と、カトキチが言っていました


どうして、ダメなの?

プールには何があるの?

ボクの知らないモノですか?

ボクに見せないつもりですか?


でも、その前にオシッコ

膀胱にミネラルが溢れている

コロコロと流れていく、ああ、コロコロと


プールは鮮やかなイコライザーでした

水面に映るミルキーウェイ

そして、カイパーベルトと

エッジワースのリング

何処までも続く

オールトの雲


ホント

イイ気持ち

ボクはすっかり

ル・プティ・プランス

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