どなたでもいいので、わたしの友達になってくれませんか?~連載中~

@raihuri-888

第1話  幼き頃の話

私の名前は刈穂。かりほ、と読む。

三歳ぐらいには、もう字が読めるレベルの知能で、その時から、本が大好き。

将来の夢はいつも、司書さん!と自信満々に言うぐらいな、本の虫。

以上が私の自己紹介。

みじかい自己紹介でごめんなさい。

だって、それ以外は私は、本当に普通な子なの。

例えば、勉強をさぼるのが好き、ピーマンが嫌い、とかね。

まあ、でもこれだけだと確かに物足りないので、幼い日の話をしよう。

私にとって世界一不幸で、世界一幸せだった日の話を。


――――――――――――――――――――――――――――――――


六歳になったばかりのある日のことだった。

お父さんが急に、

「もう、刈穂も、六歳だな!そろそろ王様に挨拶をしなければならないだろう。

 来週あたりには、招待状が来るだろうか…。」

と言ってきた。

……?王様に挨拶?つまり王様と会う…?

私はえっ、王様!?と、少しびっくりした。

いや、絶対、少しじゃない。

例えるとしたら、ある日、突然世界が消える時ぐらいの驚きだったと思う。

うん、さすがにこのたとえが現実になった時のほうが驚いて、ショックで倒れると思うけど。

うちは、男爵家である。

階級は、男爵家、子爵家、伯爵家、侯爵家、公爵家の順に偉くなっていくから、つまりは、うちは平民とほぼ変わらない貴族、ということになる。

だから、貴族であって貴族ではないような自分が、王様にあえるのか、とすごい驚きと…、うれしさがこみ上げた。

一応言っておくけど、王様っていうのは、ホイホイ会える存在じゃない。

だからこその、驚きと、それ以上のうれしさが、身を包んだのだ。

その日は、驚きと、王様にあうとき何を言おうか、そんなことをぐるぐると考えていて、あまり眠りにつくことができなかったー。


そして時は過ぎ―。


当日。

私は、驚きと、困惑と、感動でごちゃ混ぜになったような気持ちだった。

王都はとても賑やかで、私が住んでいたところが、いかに田舎かと、思い知らされた瞬間だった。

なかでも、お城。

お城の作りがとても壮大で、広くて、子供ながらに好奇心を刺激された。

まさに、その時こそ、田舎からはるばる王都まで来たことに、意味を感じた瞬間だったと思う。

馬車で来たのだが、本を読んでいると馬車酔いしてしまうので、馬車の中では本を読むことができなかった。

だから、若干拗ねていたのだが、それが一瞬で吹き飛ばされるほどの、面白さを兼ね備えたのが、王都だった。

そんなこんなで、王様との面会時間が訪れ、私はわずかに震えていた。

すごく緊張して、たぶん汗でべとべとの姿で、震えていたのだが、私は何とか声を絞り出した。

威海我いかいが男爵家が長女、刈穂/晴香/威海我と申します。

 ラザリア帝国の太陽とうたわれる帝王陛下にお目に書かれまして、光栄至極に存じ

 ます。」

本で読んだ最上級の礼儀正しいあいさつ。

間違ってはいないと思う。

そう思いながら、礼の姿勢を崩さない。

少しの静寂。

この静寂が嫌いだ。不安になってしまう。

王様…、いや、帝王陛下の

「顔をあげよ。」

という一声で、静かに顔を上げた。

すると、お父さんの、ポカンとした顔と、いかにも楽しい、みたいな顔の帝王陛下

が見える。

帝王陛下が、お父さんに

「お前も、良い娘を持ったな。

 賢いうえに、顔も整っている、これで地位があれば、それなりの嫁ぎ先が見つかっ 

 のではないか?」

とからかうように言った。

私自身、本優先で、結婚は二の次みたいな感じだったから、お父さんが、どこかの貴族に嫁がせるつもりです、とか言ったらどうしよう、と思い、父の顔を見上げていると。

お父さんは、

「もったいないお言葉、感涙いたします。しかしながら、親子一同、結婚につきま

 しては、能力のあるものを、と考えております。それゆえ、地位に固執しよう

 などといった考えはないのでございます。」

冷静に、そう切り返した。

私は内心ほっとする&お父さんを誇りに思った。

帝王陛下は、それを聞いて、さも、愉快そうに笑う。

「ははははは。面白い親子だのう。」

何が面白いのかはわからないが、お父さんと一緒に

「ありがたきお言葉、光栄至極に存じます。」

と返答しておいた。


そうして、帝王陛下が笑ってばかりいた、面会は幕を閉じ、私は一息ついた。

そのあとに、お父さんからの勧めで、バラ園を散歩することにした。

見事なバラたちに心を奪われつつ、貴族は、このお城に来れば、いくらでも、このバラを見ることができることに、感謝しかない、と思った。

そもそも、ここは王族の庭なのだから、貴族には見せないという風に決めても、おかしくないのだ。

帝王陛下だって優しそうなお方だったし。

王族って傲慢なのかと思っていたから、本当によかった。

と、誰かが前方から、たたたっと走ってくる。

とっさによけようと、横に体を移動させると、走ってきた子が、私の真横でききーっと止まった。その際に、横の花壇から、茨が突き出ていたので、さりげなくそのいばらのとげがない部分をつかんで、その子が傷つかないようにする。

「なんで、よけるんだ!」

怒鳴ってくる子をまじまじと見つめた。

結構いい服を着ている。

私より、階級が高い貴族であることは明白だ。

というわけでむかつくけど、敬語を使おう。

「ぶつかりそうでしたのでよけさせていただきました。」

あなた様の安全のためにも、と付け加える。

「俺は、そんなこと、頼んでいない!」

「はい、ですから配慮して、よけさせていただいたのですが。」

「配慮なんてするんじゃない!」

「そうしますと、思いやられたくないということでしょうか?」

「そ、そういうことだ!」

「でしたら、配慮はしない、ということでこの茨、つかむの、やめますね。」

私が放した、いばらのとげが、容赦なくその子の尻に刺さる。

「い、痛っ。」

痛みで目が潤んだその子を見て、もう一度言う。

「配慮、しなくていいんですよね?」

「ううっ…、しろ!配慮しろよ!」

偉そうだなーと思いつつ、尻から茨をすっと抜いた。

「い、いたた。お前、すっごい生意気だな。絶対、友達一人もいねえだろ。」

その言葉をそのままそっくりこの子に返してやりたくなって、でも、必死にそれを押しとどめる。が、やはり、無理だった。

「いなかったら、何ですか?そういう、あなたはいるのですか?」

「う、い、いないけど!だから、何なんだ!」

いや、私が言ったことをオウム返しに返答されてもねえ。

「断言できる!」

私のあきれたような眼をにらみ返しながら、その子が言った。

「何をです?」

「お前は、十三歳の誕生日までに、友達、一人だって作ることはできないだろう!」

さすがに、作っていると思うけど。

失礼過ぎない、この子?

「さすがに、作っていますよ。」

「本当だな?約束できるか?」

「ええ、約束できます。」

この軽はずみな言葉を、のちに激しく後悔することを、私はまだ知らなかった。

このときは、バラ園で生意気な男の子に出会った、くらいにしか考えていなかったから。


しかし、私が約束を交わしたこの子は、正真正銘の王子さま。

しかも、約束を守らなかった人の大切なものを奪うという、魔法の持ち主だったのである。




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