2 それはおかしゅうございますわ

 「申し上げます。

まずひとつ。

白花さまがわたくしの指図で孤立なさっていたとのお話ですが、

そのような事実はございませんわ。


 最初、そう、もう半年になりますのね。

この春、白花さまが我が国へいらした際は、

わたくしどももお手助けを致そうと、

事あるごとにお声がけさせていただいておりましたわ。

ですが白花さまはことごとく逆手に取られましたの。


 婚約者のいらっしゃる殿方に、みだりに触れてはなりませんと申し上げれば

『学園に身分を持ち込まないで』とおっしゃり、

高位の殿方、それもお相手の決まった方にばかりしなだれかかっておりましたわ。

 質素を旨とする神殿の救護院への慰問に際して

大仰な衣装は避けるようにと申し上げれば

『殿下から頂いた大切なドレスなの!』と主張されて

昼の慰問に晩餐会用のパーティドレスをお召しになりましたわ。

 ついで申し上げますと、そのドレスは

婚約者であるわたくしへの衣装代として設けられた

王室予算からご注文されておりましたわね?

その財源は民からの血税でございますわ。


 そうして毎回、わたくしたちに虐められた、と

高位の殿方に縋ってお泣きになりますのよ?

一事が万事、わたくしどもの言葉は通じませんでしたわ。

異世界との文化の差はございましょうけれど、

こちらの常識をお教えしようとした者は

白花さまから、ことごとく悪もの呼ばわりされてしまいましたの。

お可哀想に、それをお信じになった殿方から叱責されていらっしゃいましたわ。

皆が距離をとるようになるのも、

無理は無いとお思いになりませんこと?」


 あら、わたくしが長々と申し立て致しますと

いつもは途中で遮られますのに

殿下が大人しくしていらっしゃるなんて

珍しいこともございますわね?


「屁理屈を申すな!キサマと違って可憐なミズキがそのような…」


 まあ、やっぱり。

思ったとおりですわ。


「ふたつめ」


 ですから不敬ではございましょうが、

わたくしは被せ気味に申し上げますのよ?

もちろんわざとですわ。

婚約を交わしました日に、殿下のお言葉を遮る特権も両陛下より頂いております。

なんと言ってもわたくし、可憐ではないそうでございますし?


 「頼るものもいないまま孤高にお立ち遊ばされていた、とのことについて。

白花さまが我が国でお暮らしになるための

お食事やお衣装、お住まいを整える使用人の手配をはじめ、

資金面でもご不自由されませんよう、

国から支度金や生活費ほか、

決して少なくない額をご用意させていただいておりますわ。

予算を承認する際に当家もサインをいたしましたから、存じ上げておりましてよ?

 それに後見を希望する貴族家も多数ございました。

結局は神殿預かりと言うことになりましたけれども。

そうそう、神殿からも付き人が配せられましたわ。

大変に見栄えの良い殿方が。

 いずれにせよ殿下の仰るようにという状態ではございませんわ」



 ……当家からの報告によりますと、その使用人たちもそろそろ、ですわよね?

殿下はご存じないようですけれど。


 まあ、殿下ったら天井に向けていらした

お顔の角度を維持することすらお忘れのようですわ。

殿下のささやかなご身長では、わたくしを見下ろせませんのに。

 あまりにも差が大きくなりませんよう

わたくし、ヒールの低いドレスシューズをオーダー致しましたけれど

無駄になってしまったようですわね。

 小柄なお身体に、絢爛豪華なお衣装を身に纏われた殿下は

真っ赤なお顔でわたくしを睨みつけていらしゃいます。

黒地に黄金を華やかに散りばめ、一筋の空色と緋のアクセントが左右にひとつずつ。

大変に豪奢な装いではありますけれども

プルプルされているところは小動物のようですわね。

 こう申してはなんですけれど、

おつむりの方もお小さくていらっしゃるから

言い返す語彙を思い付かれないのでしょうか?


 「みっつめ」


 反論の語彙にご不自由されていらっしゃるようですから

このまま進めてしまってもよろしいですわよね?


 「わたくしが己の力で立たず、

白花さまに寄り掛かって締め付けている、とのお話について。


 己の力で立てない者、立たない者、など我が領に居るはずがございませんの。

当オーシャンブルー侯爵家の者は幼い頃より

を徹底的に教育されて育ちますの。

国境の領地を守るのですもの、当然ですわよね?

毎年のように異国のものたちが我が物顔で

根こそぎ薙ぎ払いに来ることも多ぅございますので。

 当家のものは領主から民草までことごとく、

『頑健であれ』

それをこそ望むのです。

領法でも定められているのですわ」

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